第51話「出会いをクリエイトする時間」


「さてと」


 ましゅ・がいあーからあっさり元の姿に戻った俺は、呟き腕を組む。


「面識があるとするなら、矛盾のないいきさつをでっち上げねばならん」


 後あとどこかでツッコまれて困るようなずさんな作り話にはできない。油断すればあっさり窮地に陥ることを俺は思い知らされたばかりなのだから。


「そうだな。『ましゅ・がいあー』は困った者は見捨てておけないキャラになっている。なら、人助けの旅の最中、単独行動中の俺と遭遇したことにするか。人助けの為に追っていた魔物と俺が戦っていた魔物が同じ個体で偶然共闘することになったとか」


 そしてこれからの行動でも時々出くわしているような言動をちらほら見せればいい。


「また奴と出くわした」


 なんてセリフを口にする回数が増えれば、時々顔を合わせていると印象付けられるだろう。もっとも、二人同時に姿を見せないと気があると不自然なので、ましゅ・がいあーのふりをしてくれる協力者をどこかで作るか、問題解決の為の魔法を作成する必要が出てくるが。


「後のことは後のことだ」


 まず出会いの設定を先に考える。


「出会った場所は、人気のないところと言うのは外せない」


 その頃ましゅ・がいあーは影も形も存在しなかったのだから。


「今回の件と関連づかせるなら、国内なら東側……国境を出て活動したことなどさしてない筈だ。やはり国内が無難だな」


 設定を詰めるうち、俺の脳裏で情景は形になってゆく。


 ◇


「これでは人っ子一人いないのも無理はない、か」


 木々の覆い茂る碧の景色の中、飛び掛かってきた狼型の魔物に氷の魔法をご馳走しながら俺は独り言ちる。木漏れ日が足元へまばらに当たり風に揺れる木々のざわめきに魔物のモノである唸り声が混じった。


「魔物さえいなければ森林浴にも良さそうな場所なのだがな」


 嘯く間にも木々の陰や茂みの中から姿を現すのは俺の魔法を受けて悲鳴を上げもんどりをうったのと同種の魔物。狼は群れを作ると言うが、姿が似れば行動も似ると言うのか。


「この量の多さは、ある意味俺一人で正解だったかもしれん」


 とても他者を守りながら戦える数ではないと呟きながら湾曲した氷の壁を魔法で作り出せば、飛び掛かってきた魔物が数匹、壁に激突してひっくり返る。


「ウゥゥーッ」

「ほう」


 後に続こうとした魔物が思いとどまるように足を止め姿勢を低くしながら威嚇するように唸ると俺は感心したように声を上げた。


「一応、学習能力はあるのか」


 だが、足を止めたのは失敗だったなと俺は新しい魔法を放つべく地を蹴った。相手が動かないならこちらが動いて最前の間合いを作ればいい。


「こ」


 これで終わり、必殺の間合いの筈だった。数が多く一匹一匹へ悠長に時間を割くわけにもいかない。あっさり片付けるはずだったのを遮ったのは、断末魔と共にどこかから飛んできた魔物の身体。


「な」


 まるで城壁を破壊する攻城兵器から放たれたかの様な勢いで飛んできた魔物の身体は、俺の視界を横切ると何本もの木をへし折りながらどこかへ消えて行った。

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