第48話「忘れてないょ」


「読者の皆様は覚えているだろうかッ!」


 現実で唐突にこんなことを言い出したら痛い奴だが、俺はこの世界を創作物だと認識しているがゆえに、敢て言う。


「教え子たちは工作員を護送後、俺の後を追ってくるということを」


 何が言いたいかと言うとですね、索敵用脳内地図の関所を超えた向こう、つまり本国側から味方を示す色の印が関所へと向かってきているのだッ。


「普通に考えれば、ありえんッ」


 関所の内部を偵察したり、竜と出会って戦ったり、遠回しに求婚されたりと色々した上で関所を再訪問し、責任者と話をつけ、問題の竜が無害ですよと証明する場所まで用意した。それなりに時間は経過している筈だが、移動には魔法で空を飛び時間を短縮しているのだ。教え子たちがこの短時間で関所までたどり着けそうな位置に居るとは思えない。


「ぶっちゃけ、味方の印を見るまでは……いや、忘れてはいなかったッ!」


 いくら竜の番にされそうになったなんて衝撃的な事件があったからとはいえ、教え子たちが国境へ向かってくることを忘れている筈がないではないかッ。


「往復と言伝や手続きなどもろもろやったとすれば、最低でも一日はかかるはず」


 となれば、味方の印が少しミステリーだが、悩んだり現実逃避していても始まらない。賽は投げられたのだ。となれば、関所を訪ね、責任者にこちらの準備が終わったことを告げるべきだろうッ。


「不確定要素に躊躇ったり、その処置に時間をかけてはそれこそ教え子たちが到着しかねないッ」


 そう思い、関所を再訪問した俺は堂々と名乗りを上げ、出てきた兵士に責任者のへの取次を頼んだのだが。


「伝令が」

「何っ?!」


 やっと出てきたと思った責任者はしばし待てと言って関所に引っ込んでしまう始末。どうやら先ほどの味方はこの関所への伝令であったらしいッ。


「ここへの伝令かッ」


 なぜだろう、嫌な予感がするッ。そう思ったのもつかの間。


「見届け人に同行してもらいたい人物がいるから少し待て」


 戻ってきた関所の責任者はそう仰った。


「あの魔法作成者殿が来て下さるとは、心強い」


 なんて呟きは、聞こえなかったッ。俺には全然ッ、まったくッ、これほども聞こえなかったッ。


「むぅ」


 なんというか、油断があったのだろうか。自分がブッキングするとか想定外もいいところだッ。しかも俺がここにいるから魔法作成者は何時まで経っても現れないッ。


「実はましゅ・がいあーの正体はこの俺、スーザンだったのだ」


 なんてカミングアウトできるはずもない。一応、トイレに行った上で透明になり変身を解いて到着するということも出来るが、それをやると今度はましゅ・がいあ-が居なくなる。ひょっとして、これは詰んだのだろうかッ。俺は胸中で頭を抱えるのだったッ。







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