第47話「こんなものかと呟いてみる」
「完成ッ!」
竜の協力もあったからだろう、会場はあっさり完成したッ。巨大な身体の持ち主の協力でここまで作業がはかどるというのは少々予想外だった。
「まさに生きた重機と言ったところだッ」
歩き回るだけで地面はならされ、尻尾の一振りで邪魔な木はなぎ倒される。開けた場所を作るのは簡単だった。ちなみに、なぎ倒した木は俺が加工して見届け人用の簡易なイスとテーブルを作ったりと有効活用させて貰いもしたッ。専用工具などあるはずもないので、イスとテーブルの出来はこんなものかと呟く程度だが、そこはご容赦いただきたいッ。
「曲芸用の簡単な道具も作れたことだし、証明の成功はほぼ約束されたとみて良いッ!」
人間を騙すために憎い人間に従ってサーカスの動物がするような芸を披露するほどに割り切れる竜が居るなら、今頃人間は滅びているだろう。本来信じられないことを信じてもらうのだ。俺はこれでもかを超越し、誰がここまでやれと言ったかのレベルを目指した。幸いにも相方である竜の知能が高いため、芸を覚えて貰うのは本来の動物へ仕込むよりもはるかに易しく、素人の俺の指示でもそれなりに見られるモノになったと自負している。
「もっとも、他の竜も人間に無害だという誤解は招かないようにせねばならないが、当然のことだッ!」
最後の詰めを誤って今回の証明自体が人間を油断させるための竜の姦計と言うことにされたら目も当てられないッ。
「そうですわね。わたくしは他の竜にはあったことはありませんけれど、あの過程なら他の竜が人間には危険と言うことはわかりましてよ」
「うむッ。それに他の竜も同じだと思われては、そちらへ求婚にゆく人間もひょっとしたら出るかもしれないッ!」
前世の世界には人外が好きという趣向の人も存在した。こちらに居たとしても驚きはしないがお婿さん適性の高い人間が他に流れるのは出来るだけ避けたいし、その先に待つのが高い確率で竜に殺される最期だとなればなおの事である。
「それはよろしくありませんわね」
番を欲している竜からしてもその候補者が減る可能性と言うのは避けたい事態に違いない。俺の懸念にすぐさま反応する。人であれば眉をひそめたとか、表情の方でも感情を読み取れるのだろうが、相手は竜。体格に差もあり表情から感情は読み取れないが、口にした内容を聞く限り誘導は成功したとみて良いと思うッ。
「逆に言えば、そこを覚えてもらっているなら、何の問題もないッ!」
竜も見届け人や難民が誤解をせぬよう気を使うようになるはずだ。
「では、俺は関所に戻るッ! 見届け人を連れて来たら打ち合わせの様に頼むッ!」
俺は竜に声をかけると、踵を返し再び宙に浮かび上がった。
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