第46話「思いついたなら活かすべき」


「話は聞いたが、敢えて否定するッ! 俺はましゅ・がいあ-、己惚れずまた未来に希望を見出す男だッ! 俺よりも資質のある人間を俺は知っているッ!」


 そして世界は広いのだと竜へ俺は言い、休む暇なく言葉を続ける。反論や反応の猶予を与えてはだめだと俺は学んだッ。ここは畳みかける必要があった。


「俺ごときで妥協するのではなかったと後悔する日が来るだろうッ! 故に番になるという申し出は断らせてもらうッ!」


 言えた、謎の達成感が心に満ちてくるが、まだだッ。


「むろん、断って終わりにする気はないッ、幸いにも見どころがありそうな人間の男には心当たりがあるッ! その中からお前と番になっても良いと思う者を探す方が俺は良いと見た。理由は若さだッ」


 そもこの竜がどれだけの寿命を持つのかも俺は知らない。人間を超越する様な寿命の持ち主だった場合、俺ではすぐ老いてしまうだろうとも補足した。下手に嘘をつくと後で首を絞めるッ。それに必要に迫られておらず不利益がないなら、出来る限り正直に話すべきだろうッ。


「……一理、ありますわね」


 俺の誠意が届いたのか、実は案外チョロかったのか。沈黙を挟んでから、竜が口を開いた。


「解かってくれたかッ」


 これで一安心だ。もっとも、竜の受け入れとか、生贄おむこさん候補の選定など色々残っているので、第一関門突破と言った辺りだろうが、危機を回避することにおいては大きな一歩だ。


「でしたら、もし番となる人間の雄が見つからなかった時は、わたくしの番になる、と言うことでもありますのよね?」

「え」

「自分よりふさわしい相手がいるというのが拒否する理由なのですもの。他に相手がいないとなれば――」


 たしか に こうほしゃ は おれ しか のこりませんね。


「ぐッ」


 言質を取られた。まさかそう返してくるとはッ。俺は呻くが、それで事態が解決に動き出すはずもない。


「いずれにしても、このまま無為に時間を浪費するわけにはいかないッ!」


 何だか是が非でもこの竜のお婿さんを確保しなければいけない流れになってしまった気もするが、この竜の番を用意するなら本国に戻らねばならない。


「まずは国境の難民を平和的に何とかするッ! 心当たりの者もここには居ないが、あの状況を放置して移動は出来ないのだッ!」

「確かに、わたくしも原因の一つだというのにあのままにしておくのは無責任ですものね。よろしくてよ」

「ならば、まずはお前が俺の軍門に下ったという設定で俺が連れてくる人間にお前は無害だと見せつけるッ! そこで、見せつけるための会場をこれから作る」


 ただそこにいるだけでは連れて来られた人間が警戒するため、安全に思えるような状況を整える必要があるのだと俺は説明する。


「おーっほっほっほ、まあ、あの逃げ方を思い出せば、そういう用意は必要ですわね。ですが、人間の事はよくわかりませんわ。指示はお任せしても?」

「むろんだッ! ここでしくじるわけにもいかんッ!」


 竜の視線を受けながら俺は力強くうなずいたッ。






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