第45話「そして、俺は」*


「っ」


 窮地に追いつめられたからだろうか、天啓ともいうべきひらめきが訪れたのは。


「そうか」


 俺は、士官学校の教官だ。学校に戻れば学生たちが居るし、すでに巣立っていった教え子たちも国に戻ればたくさんいるッ。ひょっとしていつの間にか俺を超えちゃったりしている教え子だっているのではないだろうか。最強主人公ちゃんの例だってある。


「なるほどなッ!」


 天は俺を見捨ててはいなかったッ。というか、これが作者の想定通りと言う可能性もまだ否めないが、絶望するには早すぎたらしい。


「最強主人公ちゃんに最強になってもらうように、学生か教え子を鍛えてあの竜のお婿さんになってもらえば万事解決」


 若干のご都合主義臭デウスエクスマキナっぽさはあるが、学生も教え子もたくさんいるのだッ。しかも士官学校ということもあってか、比率は男が圧倒的に多い。この竜だって番になる人物は若い方が良いだろう。女性に喧嘩を売りそうなそう言うことわざが前世にあったのを俺は記憶している。むろん俺とて無理強いするつもりはない。該当する人物の中から恋人の居ない男だけを抜き出した上で、あの竜と将来的に結婚しても良いという者だけをピックアップしてお見合いしてもらい、カップル成立となった時点で竜の選んだ男を俺が全力で鍛え上げればいいだけのこと。


「そうと決まれば、後はどうやって納得してもらうかかッ」


 名案に思えたが、このひらめきを形に変えるには、俺の正体を竜に明かす必要と国に竜のことを受け入れてもらう必要がある。


「ふむ……」


 自分で考えるのも良いが、まずはコメントを確認してみようと、俺は意識を内に向ける。


「『うわ、めっちゃしゃべってくるよ、この変態……とか思われてそう』か」


 おそらくこれは関所で難民に向け言い放ったり関所の責任者と言葉を交わした時に頂いたコメントだろうッ。まぁ、なんだ。あの時は俺もテンパっていたし、そこは多めに見てほしいと思う。


「しかし、『元の姿どんなだっけ……』とは」


 ひょっとして、後で何かに使えるかもと作者は俺の外見的な人物描写を敢えて描くことを避けていたのだろうか。それとも、俺がましゅ・がいあーに引っ張られすぎて本来の姿を忘れているのではと忠告してくださっているのか。いまさら言うのもあれだが、俺の外見と言うと一言で言うなら、派手だろうか。


「メッシュの入ったまるで炎の様な色合いの髪」


 あまりに鮮やか過ぎるので教官にふさわしくないと思って若干暗いトーンに染めているが、元の髪色だったならそれだけで目立ってしまっていたと思う。俺が自分を踏み台転生者だと思ったのも、この髪色にある。体つきはやや引き締まっているものの中肉中背の範囲を出ない。魔法による肉体強化を使える為、筋肉をつける必要に迫られなかったからだろうが、厄介事を押し付けられて東奔西走させられていたので運動不足と言うにも程遠い。だいたいそんなところだろうか、さて、次のコメントは。


「『もうぶっ飛ばせばいいんじゃね? って吹っ切れそう』……あー、うん」


 そう思った時期が俺にもあった。だが、敵意を向けてこない相手をぶっ飛ばすのには抵抗があったし、フラれた竜が人間を恨むようになったら本末転倒だ。そして、なかったことにするために竜の命を奪う様な身勝手さを俺は持ち合わせていなかった。だからこそ、学生や教え子たちの中から竜の婿を養成すればいいというひらめきは、天啓に思えたのだ。






 

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