第44話「『ただいま』にはまだ早くて」
「何かトラブルでも?」
案内すると言いつつも一人先行し話をつけてくると言った俺が戻ってきたのだッ。察されても不思議はなく、俺は頷くと事情を説明した。
「なるほど、わたくしが押しかけると騒ぎになるという問題を解決すべくまず少人数の人間の前で仲の良いところを見せ付けますのね」
「間違ってはいない様でどこか齟齬を感じるなッ!」
こう、ツッコんだ方がいいのか話をスムーズに進ませるためにも我慢しておくべきなのか、判断に迷うッ。
「おーっほっほっほ、大丈夫ですわ。覚悟はできていましてよ! わたくしはあなたに敗北した身。辱めを受けるのも晒し者にされるのもやむなしですわ」
「いや、言い方ッ!」
なぜだろう、竜の言い方からいかがわしさしか感じられないッ。
「俺はお前が俺の軍門に下ったと説明してきたッ」
「それは聞き及んでおりましてよ? ですけれど、もっと直接的な関係の方がその人間たちも納得すると思いますわ、番とか」
「虚偽はいけないッ!」
と いうか、なぜ に つがい。きらわれる どころ か はなし が しんてんしている ような き が する のは きのせい ですかね。
「おーっほっほっほ、なら事実にしてしまえばよろしくてよ? わたくしとあなたが番である証をその人間たちに見せつければ――」
おれ が しゃかいてき に しにますね。うん。
「そもそも、何を見せる気だッ?」
だが、今の俺はましゅ・がいあーッ、この程度で膝をつくわけにはいかないッ。
「交尾ですわ」
気力を振り絞って投げた問いに、そんな答えが返ってきた時、人はどうするだろうか。ああ、こいついろいろな認識は動物のままかって妙に冷静な目で眺めているだろうか、それとも奇声を発したり叫び出しつつつつ全力で走り出すだろうか。
「ぐうッ」
俺は後者に近かった。危うく叫ぶとこだったッ。
「おのれ、作者めぇぇぇッ」
とか。いや、それでは生ぬるいッ。ありとあらゆる思いつく罵声と呪詛を作者にぶつけていただろうッ。
「つい先日まで動物だった存在に恥じらいとかを期待するほうが間違いかッ」
知恵がついたとはいえ、元獣である。畜生である。どっちかと言うと畜生めと何かに当たり散らしたい心境ではあるが。
「あなたの『竜を倒した』という言葉はまず間違いなく真実。そんなわたくしすら倒しうる相手……番としてもわたくしが生む仔の親としても申し分なし……いいえ、これ以上の相手はおりませんわ」
ひぃっ、竜の過剰評価がハンパないッ。動物的な感覚からすれば、何があっても生き残っていけるような強い子供をもうけるのが好ましいというのは正しいのだろう。だが、俺の意思はまるで無視であり。
「あ」
ふと気づく。そういえばこの竜のブレスの効果はまだ不明のままであったことに。もしそれが、魅了の効果のあるブレスだったとしたら。
「いや――」
それはない。魅了のブレスなら、姿を消していた時にでたらめにまき散らし、魅了した俺に姿を現すようお願いすると言った戦法だってとれたはずなのだッ。
「くそッ」
考えるしかない、思いつくしかなかった。何とかこの窮地から抜け出す方法を。
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