第42話「一方は再会、もう一方は――」
前世では一度も受けたことがないモノだったが、声をかけられて不意に思い浮かんだ単語が職質、いわゆる職務質問だったのは現状の恰好が変態以外の何物でもないからだろうか。
「その証拠を披露するため、今から引き返すところなのだッ! ご用件は手短に頼むッ!」
めんどくさいことになったら嫌なのであまり人の話は聞かないイメージでの対応をしてみたつもりだが、どうだろうかッ。俺と関所の責任者の視線が合い、沈黙が生じる。
「それはここに押し寄せてきた難民たちを追い立てた竜で間違いないのか?」
声をかけてきたのはあちら、沈黙を破ったのもやはりあちらだったッ。しかし、この国のお姫様と話していた時と口調が違うように思えるのは、見るからに怪しい人物との差と言うことなのか。
「当人、いや当竜から裏付けは取ってある」
「裏付け?」
「竜は人語を解するッ! 竜が言うにはこの国の人間に声をかけようとしたら『シャベッタアァァァッ?!』と狂ったように騒いで逃げ出したそうだ。よって、少なくとも竜が喋れることを知る者はこの国の中に入るはずだッ! ここに逃げて来ているかは知らないがな」
ここで目撃者が名乗り出てくれれば都合がいいのだが、難民たちはざわめきつつこちらを窺うだけで、証言者は現れない。
「要件がそれだけなら俺はこれで失礼しようッ! 竜を連れてきて当竜の口から話を聞いた方が早いッ!」
もちろん、それだけの筈がないことはわかっていたが、長くなると竜とまともな打ち合わせが出来ず俺が困るッ。一刻も早く向かいたいことは偽りのない本音だった。
「そうはいかん。そもそも竜を軍門に下したという話も完全に信じている訳ではない。人語を解するなら、竜が人を襲うのにちょうどいいと判断して負けたふりをしていることだって充分考えられる」
「むッ」
常識的に考えれば人が単独で竜に勝てるはずがない。だからこそ関所の責任者は言うのだろう、このましゅ・がいあーが騙されていると、だが。
「笑止ッ。わざわざそんな回りくどいことをする理由がないッ」
第一、通常の魔物や竜の人への敵意は異常だ。効率よく人間を殺傷できるからと言う理由で目の前に人間が居ても攻撃しないということ自体がありえない。だからこそ、今回出会った竜には俺も驚かされたのだがッ。
「しかし、このままでは平行線と見たッ、そこで、提案だッ! 恐らくそちらは『この関所へ竜に押しかけられたくない』と見たッ! 俺の言葉が虚言であっても難民たちが恐慌に陥ったりするのではないかと言う懸念もあって声をかけてきたのだろうとも思っているがッ、だからこその提案でもあるッ!」
思いついたのは問答をしている途中のこと、だがそれはいいアイデアのように思えた。
「ついてくるが良いッ! ここに押しかけられるのが問題なら、見届け人を出向かせて確認すれば何の問題もあるまいッ? こちらから見届け人の条件指定はしない、人数も自由だッ!」
百聞は一見にしかずと言うところは変わらないが、それならこの責任者に直接確認してもらえば話が早いッ。割と行き当たりばったりだったが、無難な方向に纏められるのではと、そんな予感がしていた。
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