第40話「国境へ戻る」


「さて」


 眼下に広がる景色が飛ぶように流れて行く中、俺は考え始めた。目撃者は誰も居らず、格好はましゅ・がいあーだが中身は素に戻ってだ。ましゅ・がいあーだと、どうしても勢い任せの思考になりやすい。


「隣国が関わる問題だしな。簡単にボロが出るような説明では拙い」


 竜が無害であることをいかにして納得してもらうか。


「例えば、『ましゅ・がいあーが軍門に下しおとなしくなった』と説明したとする」


 竜は単独で大国を滅ぼす様な脅威だ。それがおとなしくなったと言われても簡単には信用できまい。


「簡単ではないだろうが、この点はあの竜に協力してもらって、全力で無害アピールをするつもりなので――」


 ここでは解決したこととして、敢えてスルーし先に進む。


「問題はその先だ。『見知らぬ人間が竜を軍門に下した』と言う点」


 つまり、ましゅ・がいあーは竜より強い人間ということになる。


「問答無用で人間を襲うということになっている魔物や竜よりは人の方が話は通じると思ってくれれば良いが……」


 竜に勝る実力を持つ個人もまた力なき人々からすれば脅威でしかない。竜も健在なのだから、竜とそれを超えた人間のセットで脅威だけなら二倍以上に増えたともとれる。


「警戒するなと言うのがオカシイな」


 だが、そこをまげて大丈夫と思って貰わなければ、難民たちの不安は残るし、それどころかうちの国にも不安が伝播しかねない。


「となると、うちの国の見える戦力として可視化するというのも手だが……」


 国の力は自分の力だとか勘違いした我が国のバカ貴族が、竜の武力を背景に国境に近い隣国の領地へ脅しをかけゆすりたかりをしたりすることも考えられる。


「発見し次第潰して見せしめにすれば、第二第三のバカの出現はある程度抑えられるだろうが」


 被害が出た時点でアウトだ。そうして芽生えた憎しみの芽がある日突然大きな災厄として花を咲かせることもありうるし、外交問題になる可能性もあるが、何よりも俺が不愉快だし、胸糞悪い。


「説得にもどれだけ苦労するか解からないというのに、その成果を欲望を満たす為のネタ程度に使うとか……」


 控えめに言ってもぶち切れる自身がある。


「後々の愁いとならないようにするためにもここはしっかり決めておく必要がありそうだな」


 個人の意思に力の振るう先が決められた強大な力は恐怖の対象となりうる。それと同じかそれ以上の脅威が存在した上で力の持ち主が味方側だとすればある程度安心してくれる者も居るかもしれないが、それでも怯える者や危険視する者は出る。


「そういう意味でいうなら国が管理しているということにした方が説得はしやすいのだがな」


 そうすると先ほどの懸念が出てくるわけで、世の中はうまくいかない。


「まったく、本当にいろいろな意味でうまくいかんな」


 思わず漏らしてしまった理由は、脳内の索敵地図で件の国境を捕えてしまったからだ。うん、何というか考えがまとまる前についてしまいそうなのであった。





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