第39話「目覚めしもの」


「うう……」


 そのうめき声に俺は振り返ったッ。


「確認しよう、目覚めたようだなッ」


 問いかけつつも背を見せつけるようにポージングを決める。もはやましゅ・がいあーに引っ張られるつもりはないが、対外的に他者を装っているのに、疑いを抱かれるわけにはいかないッ。思考でましゅ・がいあーに寄るのが拙いなら、行動で印象付ければいい。これも竜が気を失っている間に思いついたことの一つだッ。


「わたくしは……負けたのですわね」


 ただ肯定すべきか、余計な一言を付け加えヘイトを稼ぐべきか。短い時間悩んでから、俺は無言で筋肉を誇示しつつ頷いたッ、いわゆる妥協案である。


「では、話を始めさせてもらおうッ。俺に助力を求めると聞いたが、何を望むッ?」

「……わたくしは居場所がありませんの」

「なるほどッ! そう言えば『安住の地を提供してほしいとかかッ』と聞いた時、いい線をついていると言っていたなッ」


 それだけなら、解決する方法はいくつかある。解決に至るために守らせねばならないことがあったり、クリアしてゆく問題がいくつかあったりはするがッ。


「しかし住処を探せと言うことなら、問題もあるッ。竜は人にとって基本的に脅威だ。このために一つ問題も起きているのだッ!」

「え?」

「説明せねばなるまいッ、実は――」


 俺は竜へとその存在に恐れをなしたこの国の者が難民として隣国の国境に押し寄せていることを説明する。


「隣国は隣国でこの国に出現した竜が越境して被害をもたらすのではないかと警戒しているッ」

「……そのようなことになっていたのですわね」


 手合せの前に軽く追われた人間が困っていると口にしていたからか、こちらの説明はすんなりと受け入れられたようだったッ。


「この国に残るつもりがないというなら、お前が無害な存在であること、そしてもうこの国を出てゆくということは知らせねば、この国の人間は『もう居ない竜の存在』に怯えつつ過ごすこととなるッ」

「お話はおおよそ理解しましたわ。発端もわたくしでの様ですし、その問題を解決するためにわたくしに会いに来たのですわね?」

「肯定しようッ」


 内心の驚きを押し隠しつつ、俺はへその前で両拳を突き合わせ、ポーズをとった。呑み込みが早い。竜と言うものは憎しみで曇っていなければこれほどに知性の高い存在だったというのかッ。


「でしたら、まずその国境とやらに赴くべきですわね」

「いいのかッ? まだお前の身の置き場についての話が始まってもいないが」

「原因はわたくし。よろしくてよ、と言いたいところですけれど、先に問題解決を手伝う代わりにこちらのお願いも聞いてもらいたいという下心もありますもの」


 正直は美徳と言う。だが、その おねがい に いやな よかん しか しない のは、きのせい ですか、そうですか。


「先に言っておこうッ! 俺にとて聞けることと聞けないことがあるッ」


 せめてもの抵抗に予防線は張っておこう。ここでもめて国境の方が手遅れになったら急いでここまで来た意味がないッ。


「おーっほっほっほっほ、もちろんわかっておりましてよ。過分なことを望むつもりはありませんわ。さ、案内はよろしくおねがいしますわね」


 本当にわかっているのか不安になるものの、今はその返答を信じるしかないのだろう。


「ならば最短距離を一直線に駆けて俺が先行するッ! 先方に話をつけてからでないとあちらが混乱する恐れがあるのだッ!」


 だからゆっくり俺の去った方に歩いてきてくれと告げるや否や俺は魔法で飛び上がったッ。


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