第38話「表記するとしたらアヘ顔以外の言葉が見つからなかった」*
「ひとまず収穫だったのは、この魔法なら同じ元動物タイプの竜にはそれなりに効くであろうと思われることかッ」
俺の視界の中では、先ほどまで侮れない相手だった竜が白目を剥き、舌を口から零れ出させながら痙攣していた。表記するとしたらアヘ顔以外の言葉が見つからないが、そう表現するときっと何割かの人々に詐欺だと訴えられそうな気もするッ。
「しかし、何と言うか……やりすぎてしまったッ!」
これでは竜が意識を取り戻すまで待つより他ない。もちろんその時間を無駄にする気もサラサラ無く、俺は独り言のお供に地中に作った空洞を埋め戻す作業を始めている。
「しかし、この分だと作業の方が先に終わりそうかッ」
終わってしまったなら、まだ確認していないコメントを拝読することにしようと思う。
「もしくはこの辺りの整備をするかだなッ」
地面から少し視線を上げて周囲を眺めると、竜との大立ち回りで倒された木々が目に付く。立ち回りの被害だけではなくおそらく竜がただ駆けて来ただけの場所もそれなりに無残な格好になっているかもしれないが、流石にそこまでは面倒も見きれない。上手いこと利用して道にするとかしてくれることを祈るのみだ。押しかけだが、竜の脅威を解決しようと動いているのだからそれぐらいはしてほしい。
「戦いには勝ったッ。ならば竜が意識を取り戻せば求める助力の内容を語るはずなのだッ!」
それがお婿さんになってくださいなら全力で断るつもりだが、それは手合せに臨む途中で発生した案件だッ。
「普通に考えるなら、身の処し方ということになるなッ」
相手は竜、しかも人に敵意を抱かぬ竜ともなれば、会話によって未だ解き明かされぬ竜や魔物についての謎を解明することとてできるだろう。この竜が人に敵意を抱いていないということを信じることが大前提だが。
「そう、魔物と戦う兵を率いる士官を養成する学校としてはこれに勝る教材はないのだッ!」
嫁としてはNOサンキューだが、士官学校に受け入れた場合のメリットは大きい。もちろんそれを可能とするまでに解決しないといけない問題もあるし、現時点では本人の意思確認もしていないので思い切り取らぬ狸の皮算用ではある。それもこれもまずは国境の難民の問題うぃおどうにかして考えることだと思うが。
「国境と言えば、どうやって竜の問題が解決したかの説明の仕方も考えねばなッ」
竜には俺が倒したということで死んだふりでもしてもらい、誤魔化した後で姿を変えてもらうか。倒して軍門に従えたということにして、竜をひきつれて国境に姿を現し、説明するか。竜に死んだふりをしてもらっておいて、俺は目撃者を語り、何者かが倒していったと話すなんて方法も思いつくが、これをやった場合竜を倒した奴はどこに行ったんだという騒ぎになるッ。
「竜の意見もきかねばなるまいッ! となると、決めるのは時期尚早かッ」
振り返るが、竜はまだ意識を取り戻した様子はなく地に転がったままであり。ならばと俺は脳内に意識を傾けた。コメントを拝読するためにッ。
『へー、このどらさんそんなことがあったのかぁ。あー……だからそんなことを……なるほどねぇ~』
そのコメントを拝見し、俺はどんな表情をしていただろうかッ。ぼかされててまったくわからんッ。いや、文脈からすると、竜が俺と出会った経緯について書かれた話が挿入されていたのだろうか。
「所謂『番外編』と言う奴だなッ」
ある意味良い情報ではある。読者の方々の協力が必須ではあるが、他の登場人物の心境や俺の知らない過去などの普通ならどんな手を尽くしても得られない情報が手に入るかもしれないのだ。
「……すまなかったッ」
竜がまだ復活してないのを確認してから、俺は声に出して自分の特殊能力に謝罪したッ。過小評価していたことを恥じて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます