第28話「ティータイムの後に」


「粗茶ですが」


 相手が隣国のお姫様となるとやりづらいのだろう。先ほどの女性二人とは別の声がお茶を勧めていた。


「これは我が国特産の」

「ええ、精神を落ち着かせる上に魔物除けとしても使えるとはすばらしいハーブですな」


 やり取りを聞いて、ああと俺が思ったのは、俺も出されたお茶と思しきものの愛用者だからだ。


「怒りを殺す草」


 直訳すると、そんな意味を持つ香草は、イライラをすっと解かしてしまう、不思議な効能を持つ。ヤバい葉っぱではないかと同じ士官学校の衛生兵科の教官に尋ねてみたこともあったが、麻薬とかではなく、草自体が常時沈静化の魔法の様なモノを発動しているのだそうだ。怒りだけではなく敵意や害意も霧散させるので、身を守る為の進化の結果そうなったのではと俺は勝手に解釈している。

 ちなみに、害意を霧散させるならどうやって収穫するのかと思うかもしれないが、この香草の魔法的な効果はあまり強くない上、体内に摂取した時に最大の効果を発揮する。要するに摘んでもすぐ食べなければ、香草の効果は収穫を阻害できる程の効果は齎さないのだ。


「直接葉を齧る草食動物なら話は別なのだろうがな」


 もっとも、草食や雑食動物の中にもこの特性を学習し、収穫してすぐには食べないモノも居るのだとか。ちょうど香草のことを衛生兵科の教官に尋ねて居たとき、聞いても居ないのに動物好きの別の科目担当の教官が得意げに話していた。


「いかん、話がそれた」


 そんな香草のお茶を出した理由は明白である。イライラすんな、ちょっと落ち着こうぜと言う意味合いであり。隣国の特産品を出したというのは、小さなヨイショの意味も持っているのかもしれない。


「もっとも、落ち着いてもらったところでどうにかなるとは思えんが」


 一度難民を通してしまえば、もう通せないよとは言いづらくなる。そして、入国した難民が事件を起こせば、入国の許可を出したこの関所の責任者が責めを負う。とはいえ隣国のお姫様の口添えがあると断りづらい。


「膠着状態だろうな」


 俺だったら、なだめすかしつつ伝令を出して上に指示を仰ぐ。形だけでもどうしましょうかと聞いておけば、拙いことになっても責任が自分だけに集中することはなくなるし、自分では容易にNOを突きつけられない相手でも上司という虎の威を借りることでお断りできるかもしれないのだから。まあ、お姫様にNOを突きつけるとなると、相応の人物が出張る必要があるだろうが。


「参ったな」


 この状況、俺が教え子たちと到着したとしても何の解決にもならない。そう、例えば隣国にお邪魔して元凶の竜を倒すなり撃退するなりして難民を脅かす大本を何とかしない限りは。


「これは、俺に行けということか?」


 この世界は創作物の世界だ。だからこそ、解かってしまう。これは俺に何とかして来いと言っているのだと。


「はぁ」


 損な性分だと思う、見てみぬふりができないのは、だから。


「俺に火の粉が降りかからないなら好きにやってくれて構わない。そのかわり――」


 最強主人公ちゃんよ、踏み台転生者になるから、このポジションさっさと代わってはくれまいか。切に願う。


「まだ無理なのはわかっているがな」


 ぼやかずには居られなかった。

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