第25話「結局そうなる」


「工作員は放置できん」


 わかりきったことでもある。ゲドスは過去のフルボッコを逆恨みして、工作員を各国に潜伏させていたらしく潜伏させた工作員から定期的に情報を得ながら、機を窺っていたらしい。


「あれは竜の出た国を挟んで反対側だったか」


 ゲドスにも隣接するその国が竜巻によって大きな被害を受けたことがある。このときその国とまだ王国だったゲドスは休戦協定を結んでいた。だが、相手が弱ったと見るや休戦協定を一方的に破棄し、ゲドスは災害で疲弊した国に攻め込んできたのだ。もっとも、ゲドスの侵略軍は攻められた側の国と同盟を結んでいた別の隣国からの横撃をくらい、メタメタにやられて撃退されたのだが。


「自分のことしか考えず、約束は守らない、そして短絡的で愚かな連中」


 他国からゲドスがそう見られる由来になった出来事の一つだ。もうおわかりだろうが、ゲドスを袋叩きにした国の中に攻められた国とその同盟国も含まれている。


「恨まれるのはどう考えてもあいつらの自業自得なんだが、問題はそこじゃない」


 あの国が他国の災難に付け込む性質であること、この国にそんな国の工作員が潜伏中であること。


「竜がこちらに向かって来たら、まず間違いなくゲドスは便乗する」


 竜による被害で疲弊したところに侵攻をかけ、同時に工作員たちが国を内側からひっかきまわす訳だ。


「その前に竜が居なくなったお隣を狙うだろうがな」


 竜の被害にあったお隣の国からは周辺の各国に難民が出ているだろうし、潜ませた工作員が生き残っていれば、本国に情報を伝えたことだろう。そも、俺だって竜が出現したことは知らされているのだ、ゲドスの上層部も竜が出現したことを既に把握している筈だ。


「『工作員を全員捕縛した上で報告と共に送付、そして指示を仰ぐ』べきなのだろうな」


 報告、連絡、相談。いわゆるホウレンソウは重要だ。まして、こんな爆弾めいた情報を放置していいわけがない。工作員とて俺がぶちのめしたり捕えたのは氷山の一角にすぎないと見るのが自然なのだから。


「工作員狩りか」


 竜の件がある今、既に把握してる山賊もどきたちを除き、俺がそちらに手を貸すことは出来ない。


「表向きは不測の事態があったからと言う理由で教え子たちは返すべきだろうな」


 捕まえた工作員を馬車に押し込んで、そのまま報告に向かってもらう。そして俺は単独で残り、竜へ当たる。


「国境警備の兵を借りるとかなんとか言ってごまかせば、何とかなるだろうしな」


 教え子たちだって俺が単独で竜に挑むとは思わないはずだ。


「だいたい方針は定まったな。あとは工作員の確保と、確保した経緯の言い訳を裏付ける偽装ぐらいか」


 つまり、もう一度ましゅ・がいあーになってここに居ない工作員たちを確保し、縛ったうえでいったん離脱、元の姿に戻ってたまたま発見した態を装い、輸送の為教え子の元に戻るという手順を踏むわけだ。


「まぁ、それもこれも最終的には自分の為だしな」


 面倒だとは敢て言うまい。一人になれば他者への気兼ねもいらないし、全力だって出せる。下手にうじうじ悩むより、よほど気楽でいい。


「ふぅ」


 決めてしまってからは、早かった。索敵魔法によって工作員の位置はすぐに特定できる。最強主人公ちゃんと教え子は当初の予定を優先したようで工作員たちと戦った場所からかなり離れた士官学校側の方に印は動いており、工作員たちの印は動かないままだった。


「うぐ……」

「なるほど」


 工作員たちが動いていなかった理由は、行ってみればすぐに判明した。最強主人公ちゃんか、教え子かどちらかはわからないが、俺が去った後で残った工作員たちを縛り上げたうえで放置したらしい。


「ありがたいな」


 手間が一つ省けた。俺は元の姿で縛り上げられた男たちを「発見」すると、すぐさま踵を返す。あれだけの人数を運ぶのは手間がかかる。場所を教え、帰路で回収してもらうのが一番スムーズに事が運ぶ。


「しかし……」


 こううまく事が運ぶと、少し不安になる。うまくいきすぎではないのかと。


「いや、下手にこういう考え方をするとそれこそフラグが立つよな」


 飛ぶように流れる景色の中、俺は脳内で頭を振ると教え子たちと合流すべくただ走り続けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る