第24話「お楽しみの時間(後)」*
「ふぅ」
風の音、梢の揺れる音、いくつかの自然の音と共に、木を削る音と共に俺は居た。精神修行だったか、心の安寧の為だったか、何かに出てきた木造の仏を作り続けるシーンを思い出す。作っているものが全然違うというか、こちらの作っているのは拷問具なので比べるのも失礼な話なのだが、作業に没頭していることで、幾らか落ち着いてきた。
「『徐々に自己認識が崩れてきてない? Psycho-passだなぁ』か」
何気なく頂いたコメントを反芻する。
「どうやら俺は自分を見失っていたようだ」
キャラを作り、そこに入り込むことに熱中しすぎて、ちょっとおかしくなっていた。こう、手段と目的が入れ替わってしまったかのような。そもそも複数キャラを作っては一人一人のキャラづくりがどうしても荒くなる。
「尋問する? 普通に尋問すればいいじゃないか」
魔法の秘匿は調子にのって色々やばいモノまで、前世の創作にあった魔法を軽率に再現してしまった俺の責任。漏れないようにするのは正しい、だがそれなら安易に魔法に頼りすぎるべきでもなかったのだ。
「いや、そもそも尋問だって俺がやる必要もなかったのかもしれない。男たちをどこかの詰め所に突き出して、その詰め所の兵士なりに任せても良い」
この場合、俺はなぜか縛られ山賊と言う札を付けられた男たちを見つけて連れて来た第三者とかそう言う設定になる。
「間違えてはだめだ。俺の目的は――」
踏み台転生者として最強主人公ちゃんに負け、逃げるようにこの国を去ることだ。そして厄介ごとを周りから押し付けられることもない平穏な暮らしを送ること。これが最終目標。直近の目標は隣国に出現した竜が国境を越えてこの国に侵入した場合、撃退もしくは撃破すること。
「直近の場合は隣国の調査も含む、だいたいそんなところか」
つまり、あまり長々と山賊のことであれこれしている場合でもない。
「しかしな……こう、何か気になる」
虫の知らせと言うか、第六感と言うか。
「まぁ、気のせいか。どうせただの山賊」
最強主人公ちゃんたちを襲ったのだって大した理由はない。
「そう おもって いたじき が おれ にも ありましたよ?」
棒読みの様な口調で思わず漏らせば、もうお察しだろうか。
「ひぃっ、ち、近寄るな! 言う、なんでも言うから」
解くのを忘れていた変身魔法、縛られているという状況、作りかけの三角木馬。どれが男を恐怖させたのかはわからない。そんなことはもうどうでもよかった。
「ゲドスの工作員とか」
北にある国の工作員だと白状されて俺は頭を抱えた。第六感は大当たりだったのである。北のゲドス共和国。この国とは犬猿の仲であり、この世界が創作物と知っている俺が敵役にするために作られた国なのではないかと思わざるをえないほどにアレな国だ。強者に媚びへつらい、弱者には強く、約束事を守るかは自分側の都合次第と極めて自己中心的。敵と言っても尊敬できるタイプではなく、見下げ果てたタイプの敵だ。
「『ざまぁ』されるためにわざとヘイトを集めやすい下種な性質にしている、と疑ってしまう訳だが」
ちなみにそのゲドス、政治形態としては民主共和制を取っているのだが、これも日ごろの行いで周囲の隣国の幾つかから恨みを買い、一斉に攻め込まれた結果らしい。王族が皆殺しにされ、名だたる貴族も大半が討ち取られたところで、平民の不満が爆発、革命によって生き残った貴族たちは権力の座から引きずり落とされて今に至る。攻め込んできた隣国には新しい政府の代表者が、悪いのは王と貴族たちだと今までの悪行は死者と被追放者にすべて押し付け、領土もいくらか割譲して矛を収めてもらったのだと俺は歴史の授業で習った。ゲドスを袋叩きにした国の一つがこの国だからだ。
「工作員を潜ませてても驚きはしないな、あの国なら」
結局、尋問は頭を抱えたくなるような真実が判明したところで、終わった。隣国の工作員となれば、兵の詰所に突きだして任せるわけにもいかない。
「残りの工作員も回収せねばならんだろうな」
索敵魔法があるため、補足自体は難しくないし、最強主人公ちゃんの目がなければあの人数程度、捕獲するのは造作もない。
「あとはカバーストーリーと捕まえた工作員をどうするか、か」
教え子たちに任せて馬車で護送、俺は単独で国境に向かうなんてさせてくれたらいいのだが、おそらく無理だろう。
「この工作員にしても偵察中に発見して捕縛したなんて嘘をついても、工作員自体が尋問されれば嘘だってバレるしな」
とは言え、偵察に出たままにもしておけない。教え子たちの元へは戻る必要があって。
「はぁ」
俺の口からはため息が漏れた。
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