番外「既視感(最強主人公?視点)」

「がっ」


 突然のことだった。行く手を阻み、ボクと護衛のフロルドさんを取り囲んだ人たちの一人が、後ろから蹴られて、吹っ飛んだ。


「てめ、うおっ?!」


 ううん、それだけじゃ終わらない。その人は若干方向を変えながらも勢いを殺さず転がりながら腕で別の一人の足を払った。


「ふざ、ばっ」


 更に前転の勢いを借りて立ち上がりながら、斬りかかってきた三人目の人を拳で殴り飛ばす。


「っ」

「てめぇ、よくも仲間を――」

「と言うか、何だコイツ」


 ボクたちを取り囲んでいた人が喚いていたけれど、どうでもよかった。それどころじゃなかった。なんだか筋肉を誇示する様なポーズをとっているその人に見おぼえはない。見覚えはないけれど。


「あ……」


 前触れもなく、思い出す。こういうのを既視感って言うんだっけ。そう、あれはボクの住んでいた街に護衛のフロルドさんと同じ、あの士官学校の卒業生が通りかかったときのこと。


「物資の補充、まだ終わらないのか? ったく仕方ねぇな。いいか、お前ら? これはセンセーにゃ内緒だからな?」


 馬車に荷物を運びこむのに苦労していた兵士の人たちを見かねたのか、周囲にくぎを刺した軍服姿の人が魔法を使ったのだ。兵士の人たちが二人がかりで運んでいた箱を軽々と一人で運ぶさまを目撃したボクは驚きただ立ち尽くしていただけだったけれど。


「ぐはっ」


 目の前で戦っているその人の纏う雰囲気は、あの時見た軍服姿の人にどこか似ている。思い出さなきゃ、軍服姿の人が何をどうしていたのかを。ようやく再び魔法を目にできたんだ。人違いで馬車に連れ込まれて、特別魔法教官にはあの時のお礼もお詫びもできなかったけれど、あの魔法を自分のモノにできて戦えるようになったのなら、護衛のフロルドさんだって引き返して特別魔法教官と合流できるハズだ。ボクのせいで人手を割いて煩わせてしまったけれど、ボクが戦えればフロルドさんの代わりに一人で士官学校に向かって応援の人を派遣してくださいって伝えることだってできるはず。


「見なきゃ」


 もっとあの人のことを見て、魔法の使い方を把握しなきゃ。下着と覆面だけの男の人の身体はボクにはちょっと刺激が強いけど、気にしてる場合じゃない。ぼ、ボクだって男の人の裸くらい見たことあるし。酔っぱらって服を脱ぎ力尽きて寝てるおじさんで、その時のボクは悲鳴を上げて逃げ出したんだけど。


「って、そうじゃなくて――」


 集中集中。あの覆面とぱんつだけの人が誰なのかをボクは知らないけれど、助けに来てくれたこととフロルドさんやあの時の軍服の人と同じで魔法を使える人だってことはわかる。それに、ボクたちを囲んだ人たちもあの人に気を取られてもうボク達のことなんてまるっきり気にしていない、だから。


「お前ら、同時にかかれ。こっちは獲物も持ってんだ。リーチに差だってある」

「おう」


 覚悟はできていた。最後の躊躇いも覆面の人に囲んだ人たちが反撃しようと指示を出した瞬間、爆ぜ飛んだ。跨っていた馬の鞍に足をかけ、鞍の上にしゃがみ込むような姿勢を作って、ボクはあの時見た魔法を完成させた。直後、跳躍。


「やあっ!」


 自分でも信じられないような強さで身体を宙に運んだボクは、覆面の人を真似た姿勢でこっちに背を向けた敵に蹴りを叩き込む。


「げべっ」

「っ」


 まったくこちらを無警戒だった相手はあっさり倒れる。着地を考えてなくてお尻を地面にぶつけたけど、なんてことはない。まだ敵はいる、立たなきゃとボクは重心を移動させ。


「わわっ、これ、まだ慣れな――」


 起き上がるどころか転ぶところだった。そう、まだ魔法で身体が強化されたままだったのだ。


「もっとうまく扱えるようにならなきゃ」


 軍服の人も覆面の人もボクみたいな危なっかしさはないから、この状態を制御して動いているんだろう。幸いにもと言うのはちょっとよくないけど、お手本になる人がボクの視界のなかで戦っている。


「いくよっ」


 覆面の人がもうほとんど倒していて、残っている相手は少ないけれど、その一人目掛けてボクは足元に転がっていた石を拾うと、無防備な背中に投げつけたのだった。


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