第22話「撤収は脱兎のごとく」*
「へへ、夢だ。こいつは悪い夢なんぼっ?!」
最強主人公ちゃんが加勢してくれたこともあり、現実逃避すらし始めた最後の一人を沈めるのは簡単だったッ。まぁ、出来ることなら俺も現実逃避したいところだが。
「あの、ありがとうございました」
脅威が片付いたと見るや俺に頭を下げる最強主人公ちゃん。良い子である。良い子ではあるのだが、俺はどうしたらよいのやらッ。まだ、この仮の姿の名前すら定まっていないのだッ。
「どうやって時間を稼ごう」
脳内を生めたのはソレである。戦いも終わって今ならコメントを拝読させていただくことだってできるのだが、その間お礼を言った最強主人公ちゃんを放置と言うのも問題だろう。何かないか、何か、そうだッ。
「え?」
思わず声を上げた主人公ちゃんに俺は腕を組んで頷いて見せると徐に両腕を広げスキップしながら円を描くよう倒した山賊っぽい奴らの周辺を回り始める。
「戦いの神への感謝を込めた勝利の舞」
対外的に説明するならその様なモノになるだろう。無論、今俺が思い付きででっち上げたモノだッ。今のキャラなら、解説しようッとか前置きして語りたいところだが、解説しているような時間的猶予はなく。残念だが、やむを得ないッ。
「じゃなくて――」
そうだ、コメントだ。思わず自己ツッコミの声が漏れるところであったが、遊んでいる場合はない。速やかに確認して現状の打破に繋げなくてはッ。
「成程ッ」
下手に名乗ると声で特定される、か。可能性はある、危ないところだったッ。失敗を回避できる助言の何と有り難いことか。
「姿からは変態としか言えない」
とのご指摘は、まぁ、あれだッ。自分からチョイスした格好なので甘んじて受け入れる所存ッ。最強主人公ちゃんに興味を抱かれないための苦肉の策だから仕方ないッ。
「『特定されないような短い名前でかつ、ちゃんと覚えてもらえるインパクトのある名前がいい』かッ」
なるほどなるほど。どこかの落語よろしく名乗るだけで数十秒単位で時間をかけるようなモノは論外だが、短いモノでインパクトがあれば覚えやすくもある。この格好に次の出番が来たとき、あれこの姿の名前って何だっけでは話にならない。ごもっともだッ。ならば、名前を決めなくてはならないが。
「『【ほぼ全裸マン】は名前の候補として挙げたわけでもないですし』だとッ?!」
思うがままに行動されたら良いかと思います、と俺の判断を支持していただけることを嬉しく思うと同時に驚きでステップのタイミングがちょっとずれる。そうか、我ながら残念なミスだが、候補が0になってしまったということでもあり。
「ああ、今の俺はキャラを作ってるので、普段の俺ではないともここで明言させてもらおうッ」
胸中でになるが、こんなキャラだったのかぁとも仰っていたので、弁明してみる。まぁ、こんなキャラなのは勢いで細かい問題を乗り切ってしまおうという狙いもあるので、ある意味では確信犯なのだが。
「足元すくわれなきゃいいけど」
と言う懸念はごもっともだッ。勢い任せだからこそ、細かい場所にも気を配らねば。つまり。
「あの……何をし、え?」
ぽかんと俺を見ていた最強主人公ちゃんが、問いを発したタイミングで舞を追えた俺は、片手を上げて「それじゃ」的なジェスチャーをすると足元の男たちから二人を適当に選んで左右それぞれ手でつかむと、走り出したッ。幸いにもこの姿の名は決まった。だが、名乗るのは今ではないッ。
「俺の名は――そう『ましゅ・がいあー』ッ」
ましゅ・がいあーッではないので注意していただきたいッ。どうやら異世界の英雄の名前らしい、こんな格好にそんな由緒ある名前を付けていいのかしらんと思わないでもないが、他に案もないのだ。これから行う正義の行いで詫びに変えてゆくしかないだろうッ。
「うおおおおおおッ」
俺は駆けた、ただひたすらに。最強主人公ちゃんの視界から消えても油断はしない。まだ両手の男たちの尋問も残っていたし、変身を解き、元の服装に着替えるまでがましゅ・がいあーなのだからッ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます