第21話「ちょっ」

※お知らせ

 前話に加筆がございます、ご注意ください

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「ぐはっ」


 腹に叩き込んだ膝の一撃でまた一人崩れ落ちる。もうその場に居た半数は片づけたと思う。いいペースだ。問題があるとするなら、助けることと倒したこのい山賊っぽい男たちに尋問すること以外は未だにノープランであるということか。


「くそっ、ふざけた格好のくせになんて野郎だ」


 こんな時こそコメントを確認して良いアドバイスがないか確認すべきかと思うが敵を前にしてコメントに意識を傾けるほどの余裕はない。魔法で身体能力を引き上げているとはいえ、相手は武器を持った複数の男。肉体を用いた格闘の経験に乏しい俺としてはボロが出る前に片づけたいところではあるものの、残った男たちは冷静さを取り戻している。


「拙いなッ」


 他者には聞き取れないほどの声で思わず苦い呟きを漏らす。俺の印象から遠ざけ、筋肉質な見た目に沿うことを考えてチョイスした戦い方だったが、失策だったかッ。かといってここからいつもの様な魔法攻撃を主体にしては、態々小細工を弄した意味がない。


「お前ら、同時にかかれ。こっちは獲物も持ってんだ。リーチに差だってある」

「おう」


 次の男に仕掛けるタイミングを見計らう中、男の一人が仲間へ指示を出した。倒し損ねた男にそこそこ頭のまわる奴が居たらしい。よろしくない状況だ。最強主人公ちゃんと護衛の教え子が逃げてくれれば、戦い方を変えても問題はないのに、未だ視界の端に二人の姿は有り。


「やあっ!」

「な」


 俺は驚きに固まった。驚いたのは馬上の教え子も同じだったようだが、その後ろにいた最強主人公ちゃんが馬の背から飛んだのだ。


「げべっ」


 形は崩れていたものの、俺が最初に放ったとび蹴りを彷彿させる一撃で俺に気を取られていた男の一人を蹴り倒し。


「……って」


 待て、いくら不意を突いたとはいえ女の子のとび蹴りで革鎧を着こんだ山賊がどうしてあっさり倒されるのだ。


「まさか……」

「わわっ、これ、まだ慣れな――」


 まじまじと最強主人公ちゃんを見ると、起き上がろうとしたところで勢いがつきすぎたかのようにつんのめって転びかけていた。まさに急に強まった身体能力をどこか持て余すかのように。


 「ここで覚醒するんかぁぁぁぁいッ!」


  そんな叫びが喉元まで出た。と言うか、予想外だ。拙さは全開だが、最強主人公ちゃんが行使してるのは、俺が現在進行形で肉体を強化している魔法に他ならない。


「俺が戦っているのを見ただけで会得しただとッ?!」


 才能があることは先日の宝珠の一件で知っていた。だが、ちょっと見ただけで魔法による肉体強化と判断し模倣して見せるとか、どういうことなのッ。


「ば、バカな……」


 山賊の一人が女の子に蹴り倒されて仲間のKOされた光景に顔を引きつらせるが、気持ちはわかる、ただ。


「がっ?!」


 敵なのだッ。容赦するつもりはなく、最強主人公ちゃんに気を取られていたようだったので、隙だらけのところを殴り倒させて貰った。このまま全員昏倒させて二~三人お持ち帰りしつつ立ち去れればいいのだが、それを最強主人公ちゃんが許してくれるかどうか。そもそもこちらはまだこの格好の時の名前すら決まっていないというのに。


「あ、てめ――ぎぇっ」


 胸中は複雑であったが、好機を逃す理由はないッ。俺に仲間を倒されたことに気づいた別の山賊にも全力で拳を叩き込んだ。

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