第20話「そして俺は考えたッ」

「そろそろだッ」


 結局名前はまだ決まっていなかったが、最強主人公ちゃんたちに向けて俺は全速力で駆けていたッ。一方で最強主人公ちゃんは馬とはいえフロルドと二人乗りで、士官学校まで距離もある為馬を全力疾走させるわけにもゆかない。魔法で脚力を強化すれば追い付くことなどそう難しくはないッ。


「あれはッ」


 そうして近づけば見えて来たのは、一騎の騎馬と複数の人影。敵対者は魔物ではなかったらしい。


「しかし、人とは珍しいッ」


 魔物がはびこり人に害をなすこの世界、山賊と言うのは非常に生きにくい生き方だ。村や街なら魔物の侵入を防ぐための外壁があり、小さい村でも自警団、相応の街なら領主の雇った軍が駐留し住民の安全を護るが、山賊はその手の魔物の備えを自前で何とかしなければいけないうえ、獲物になる通行人を襲おうにも逆に魔物から襲われる危険性が潜んでいる。同じような理由から狩人や樵など真っ当な職業でも人の手があまり入っていない自然を仕事場に選ぶ職種は常に危険と隣り合わせと言える。この世界に魔物が出現し人々に害を及ぼすようになると、木材や毛皮などの値段が恐ろしい勢いで暴騰したと過去の書物には記されている。


「話は脱線したが――」


 だからこそ、俺は違和感を覚えた。ただの魔物なら蹴散らして終わりだが、相手が人と言うのがどうにも引っかかった。


「生きて捕えて尋問ッ! それしかあるまいッ!」


 つい先ほどのタイトルが分岐点だったというなら、何か裏があったって不思議はない。


「だが――」


 今の俺は通りすがりの変態ヒーロー。恐れるモノなど何もないッ。


「なん」

「っ」


 唯一あるとしたら正体バレだが、気にしている猶予もない。俺が全力で駆けつけたからだろう。殺す気すらない足音に人影のいくつかが振り返る。近づいたことで明らかになった格好は獣の毛皮と皮鎧を組み合わせた山賊ルック。


「がっ」


 最初の一撃は魔法で強化した脚力にモノを言わせた飛び蹴りをッ。


「てめ、うおっ?!」


 そのまま前転して右腕で近くに居た二人目の足を払い。


「ふざ、ばっ」


 勢いで一気に立ち上がると、斬りかかってきた三人目をカウンターの形で殴り飛ばすッ。


「っ」

「てめぇ、よくも仲間を――」

「と言うか、何だコイツ」


 見た目はとりあえず山賊らしき男たちの視線を一身に受け、俺は会心のポージングッ。本来なら名乗るべきところだろうが、あいにく未だ名前が決まっていないのだ。しかし、山賊たちのリアクションより重要なのは最強主人公ちゃん達の安否である。


「あ……」


 ちらりと盗み見ると、最強主人公ちゃんは呆然としていた。いや、まぁ無理もないッ。俺だって逆の立場だったら理解が追い付かないに違いないのだから。馬の上で固まっているというなら護衛につけたフロルドも同じだ。出来れば敵が俺に気をとられている間に加勢するなり離脱するなりしてほしかったところだが、それは贅沢が過ぎるだろう。不意を突いたとはいえ、拳を交えてだいたいの力量は解かった。これなら、単独での無力化も難しくはない。俺は無言のまま、地を蹴ると次の相手に襲いかかるのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る