第19話「サービスシーンってタイトルに入れたら、クレームは必至」*
「さて」
服は脱ぎ終わった。脱いだ服はこの辺りに隠して索敵魔法の脳内地図にも現在地に印をつけておけば服を紛失することはないだろう。
「今の俺はさしずめ『名もなき変態ヒーロー』とでも言ったところか」
変身ではなく、変態。まぁ、ブーツを除けば袋を使った覆面とパンツ一丁なのだからどこからどう見ても変態だろう。
「だが、俺はこれで満足もしなければ、安心もしない」
変装をしたうえで、行使するのは変身魔法。気になりすぎて先にちらっとコメントを見てしまったのも理由の一つだが、変装で安心して覆面やら仮面がとれ正体がばれるというのは正体を隠した登場人物が出現する物語ではうんざりするほどよくある展開だ。次点が、誘導尋問に引っ掛かるとかうっかりとかで語るに落ちて正体がバレるパターン。これと二位争いをするのが、変身もしくは変装シーンを目撃されるというモノだと俺は勝手に思っている。
「説明しておこうッ! だから、変装した上で俺は変身魔法を行使するのだッ!」
当然だが、キャラも作る。本来の自分とは全く別の人物になり切ることで、同一人物と言う疑念を抱かれることすら防ぐのだッ。だって、仮の姿は意図して変態にしたんだもん。
「隙? そんなモノ生じさせる気はサラサラ無いッ!」
拳と拳を胸の前で突き合わせ、意味もなくポージング。変身魔法によって俺の身体は筋肉量が大幅に増大した見た目へと変わっている。体毛の色も変わり、肌も日に焼けたような褐色へと近い色合いに変えた。下着はそのままだとあれなので、明るめのブルーをしたビキニパンツに変更。被っていた袋は袋から転じてフクロウをイメージした覆面に変えようかと思ったが、ファミリーネームの一部オウルを連想しそうなのでおでこの部分に変態を意味する古代語を浮かび上がらせるにとどめた。
「目指したのは、残念な文字のTシャツを着こんだ外国人を彷彿とさせるアレだッ!」
ぐっと拳を握りこんだまま空に向けて手を突き出すようにポージング。
「っと、こんなことをしている場合ではなかったッ!」
なんたる迂闊ッ。キャラを作ってなりきりすぎ、自身が引っ張られてしまうとはッ。
「待っていろ最強主人公ちゃんッ。あ、コメントはここから拝見させていただきますッ!」
おそらく失態の一部始終を目撃されていたであろう読者の方に宣言して、俺は走り出すッ。
「なになに、『最強主人公ちゃんに何かさせようとするなら【それ以外の手を塞いで】最強主人公ちゃんしか手空きじゃない状況をつくりださないとだよね』か――」
確かにその通りですッ。ということは、俺が動けているこれは作者の想定通りということなのかッ。
「しかし、『今とは言わない』……確かにッ」
まだ竜が現れたわけでもなく、何らかの危機に遭遇する可能性は残っている俺とて気を緩めるつもりはないが、最強主人公ちゃんの動向にはもう少し気をつけておく必要があるのやもしれない。尚、俺個人としては予測に基づいたコメントも歓迎ではある。自分だけでは気づかなかった危険と言うモノも存在するとは思うので。
「さて、次のコメントは……」
なんだかラジオのパーソナリティーとかみたいだなと一瞬思ったが、それはスルーするとして。
「『分岐点と言うタイトルが気になります』か。成程、そんなタイトルがつけられていたとは……」
俺が閲覧できるのはコメントのみなので、これは新情報だッ。作者の想定内ではあるが、助けに行かなかった場合で展開が変わってきていた可能性もあると。
「確かに、万が一があればロクでもない展開になっていた可能性は否めないッ! だが、だからこそ俺は確信したッ!」
今選んでいる選択肢が正解であるとッ。足が地を蹴ることで弾みながらも飛ぶように流れる景色の中、コメントが事実が俺に力をくれるッ。
「助けない、という選択肢が無いスーさん、大好き」
そんなエールが背中を押す。しかし、その格好はおかしいと言うご指摘もいただいたが、変に格好をよくすると最強主人公ちゃんの興味を引いてしまうので、どうかご理解を頂きたい。ご助言いただいた様に変身魔法も併用してますし。
「見た目は完ぺきに別人ッ、これならいつかバレるという展開も防げそうに見えるが……」
先ほど上げた変身シーンを見られるとか語るに落ちた場合は、これだけやろうとも防ぎようがない。
「そこは重々気を付けるとして――」
あとは今の俺の名前かッ。現状での候補は「ほぼ全裸マン」のみ。
「アレンジを付け加えることを許してもらえるなら、『ゼンラーマン・ダイタイホーボ特務中尉』……いや、特は拙いな。特別魔法教官の特に繋がる」
だが、役職っぽいのをつけた方がカッコよく感じるのだッ。このセンス、解かって欲しい。
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