第18話「落ち着け、考えろ、そして決めろ」

「落ち着け、考えろ、そして決めろ」


 自分自身に言い聞かせる様におれは言う。と言うか、実際言い聞かせている訳だが。


「あの赤印が何であれ、こちらに敵意を抱く者だというのは確定だ」


 索敵用の魔法は前世でやっていたオンラインゲーム、オープンワールドなRPGのマップとその裏付け設定を参考に再現したモノなので敵の定義は「こちらを見たら確実に襲い掛かってくる者」と「こちらに一定以上の敵意を持つ者」をひっくるめて赤印で表現してくれる。潜在的な敵まで看破できるという意味でチートな魔法であるが、山賊と野良魔物の違いを印だけでは見分けられないというのが、かゆいところに手が届かないというか、残念なところか。まぁ、ぜいたくを言っているのはわかっているが。


「相手は不明、わかっているのは数のみ。索敵魔法で本隊に敵が接近したなら、それも察知は出来る。気になるなら助けに行けばいい、そうかもしれないのだが……」


 最強主人公ちゃんが行く手を阻まれたことを知った索敵用魔法は、当然ながら表には出せない方の魔法だ。何故こちらの状況が分かったのかと問われたら、答えに窮する。


「そも、俺が颯爽と助け出しでもしたなら……俺の踏み台転生者人生が絶たれてしまう」


 それにまだ入学もしていない受験生に護衛を付けたうえで自身も駆けつけるとか、贔屓が過ぎると言われてしまうだろう。二人の先にかなりの数の敵対者が居るというのは想定外の事態であるし。


「つまり、助けに行くなら、俺でない誰かが助けなくてはいけない訳だ」


 通りすがりのヒーローとかなら別段疑問に答える義理もないし、たまたま通りかかったでいろいろゴリ押しできる。


「なら、どうやってヒーローに変装するか、だな」


 こんな事態を想定してきたわけではないので、変装用の衣装なんてない。


「服をできるだけ脱いで葉っぱを毟って身にまとうか……だがな」


 蛮族的な格好だが、毟ったばかりの葉は青く瑞々しい。急ごしらえで姿をごまかそうとしたのがバレバレである。


「普通なら逆説的に俺にたどり着くよなぁ」


 物語的なお約束ならバレバレでも気づかれないかもしれないが、危ない橋は渡れない。


「つまり、幻覚か変身系の魔法で姿を変えるしかない訳だ」


 そして、出来るなら最強主人公ちゃんに好意や興味をもたれない様な容姿がいい。


「不細工で太った男なら女性からの好意は受けなさそうだが、太っていると機敏な動きをした時の説得力が……」


 なら、他の面でどうにかするしかない。


「そうだな、体は筋肉質で、服は下着と覆面のみ。街を歩いていたら警備の兵に捕まりそうな変態とか……あ、ブーツくらいは必要か。足元にとがった石とかあったら裸足は不味いし」


 ほぼ全裸なら、覆面とブーツさえあれば変身魔法だって必要ない。


「確か荷物を入れていた皮袋があったな。あれを空にして目の部分の穴と呼吸穴を作ってかぶれば……いけるか?」


 使いまわしがきくなら、以後どこかで正体を隠さなければいけなくなったときにだって流用できるだろう。


「なら、必要なのは羞恥心を捨て去る勇気とこのヒーローの名前だけだ」


 そして、天啓が俺に降りる。名前の方はコメントで募集してしまえばいいのではないかと。


「って、コメント増えてる……」


 いろいろ悩んでいた俺はこの時点でようやく気付いたが、今は確認している場合ではない。名乗るのは最強主人公ちゃんを助けた後でもできるし、コメント確認は救助に向かう途中でもできる。


「待ってろよ」


 俺は覚悟を決めると、服を脱ぎ始めた。

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