第17話「分岐点」*
「二日ぶりになるか?」
とりあえず、場繋ぎ的に言葉を発す。
「勘違いから連れてきてしまったということは聞いている。俺たちの目的がなんであるかを聞いてしまったと言うことも。だが、だからこそわかるな? これは命の危機が付きまとう危険な仕事であるということも」
こう、危ないから安全なところに居なさいと言っても物語の主人公って言うのはたいがい聞き入れないイメージだが、この世界が物語と知っているのは、俺を除いたら作者と読者の皆様ぐらいだろう。だからこそ、常識的な物言いで俺は言う。護衛をつけるから来た道を引き返すようにと。
「俺の馬を貸す。フロルドはこの娘と一緒に士官学校へ引き返し応援の人員を要請しろ。滞在する地点を一つか二つ前の村にして休息を前倒しすれば合流にもそう時間をロスせずに済む」
「はっ」
己のミスであることはわかっているからか、その場にいた教え子の一人が即座に反応して最強主人公ちゃんへと近寄ってゆく。
「さて」
これで何事もなく終わればいいが、どうせ追加で何か起こるんだろうなぁと思ってしまうのは、物語的なお約束だからだが、先ほど「この世界が物語と知っているのは、俺を除いたら作者と読者の皆様ぐらいだろう」と心の中で語ったあたりで新しいコメントに気づき、それを拝見したからでもある。
「才能の化物の主人公ちゃんなら覚醒イベントがある場合護身用に教える前にシナリオの強制力で竜が襲ってきそうだね」
どうしよう、否定できる材料がない。それどころか謎のおねェキャラになり
「もぉ、そーなのよぉ。どうしようかしらぁ。と言うか、アタシ、その竜との戦闘で二度目の人生終わりとか? ふざけるんじゃないわよねぇ?」
とか、ノリノリで答えてしまえそうな程に、嫌な予感しかしない。ひょっとして、ここは物語的には分岐点にあたるのではないだろうか。
「『鬼が出るか蛇が出るか』か」
どんな展開が待っているかもひょっとしたら俺次第なのか。
「しかしな……」
常識的に考えれば最強主人公ちゃんをこのまま連れてゆくのは、ありえない。現に俺は送り返すように指示を出した。当然、最強主人公ちゃんには身を守る手段を何も伝授していないわけであり、俺たちでなく最強主人公ちゃん側が竜に襲撃されるとしたら、ひとたまりもない。俺の教え子が一人ついているとはいえ、うっかりをやらかした人物なのだ。だが、今更何か身を守る手段を最強主人公ちゃんが得てしまうと、それがフラグになって竜は主人公ちゃんを襲いそうな気がする。
「特別魔法教官?」
「周囲を警戒しておけ。俺は少し先を先行して偵察してくる。何か嫌な予感がしてな」
訝しむ教え子に命じてから俺は単独で走り出す。もちろんただ走るだけではない。魔法を使って加速し、馬に乗った教え子たちをも追い抜いてさらに先へ。教え子が居ては秘匿せざるを得なかった魔法が使えない。
「想定外のこの状況下で相手が最悪竜となるなら、手段は選べん」
自重は投げ捨てるしかなかった。まずは、周辺の索敵だ。国境まではまだ遠い、普通に考えるなら竜がこんなところに来ている筈もないからこそ探知範囲は広くなる。
「反応は――ッ?!」
魔法により脳裏に広がる簡易な地図にいくつものしるしが浮かび上がり、それらを見つけて、絶句する。十は下らない敵対者を表す紅い印は士官学校方面に向かう二つの味方を待ち伏せるように道をふさいでいたのだ。
「くそっ、山賊の類か、それとも魔物か」
今回集めた教え子は全員が士官学校を卒業している。山賊にしろ魔物にしろ全滅させろと言う訳でなくただ突破させるだけならその程度の数は何の問題もない。ただ、タイミングがいやらし過ぎた。
「これは俺が介入する想定でのイベントなのか……」
作者の意図が読めない。
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