第13話「教訓はいかすべし」


「特別魔法教官、物資の準備が終わりました」


 早いなと言おうかとも思ったが、口をついて出たのは、そうかという言葉のみだった。まぁ、ここまで早く終わったのは思い出したくもないのに引用せざるを得ないあの竜との戦いに起因する。何とかいうか、あの戦いで再認識したのだ。攻城兵器もどきや膨大な人員を用意しても無駄な被害を増やすだけだと。と言うか、人の目があるとそもそも世に出せない、出したくない魔法が使えない。単独で赴けば全力で戦えるだろうが、あの竜との戦いを伏せている現状では単独で行くと言ってもまず間違いなく止められる。


「竜>俺」


 と言う強さの認識なのだ、周囲は。それでもそこそこ強いとは認めてもらっていることと、魔法に巻き込んでかえって邪魔になるかもしれないという理由から、戦力と言うか随行人員を少数精鋭化し、持って行く物資も少なくしたからこそこの短期間で準備が終了したという訳だ。当然ながら攻城兵器は持っていかない。行軍速度が遅くなるし、そんなデカブツを持って行こうものなら、その先で何かでっかい戦いをするかもしれませんよと言ってるも同然。


「やはり攻城兵器もどきは不要だな」


 一夜城よろしく現地調達不能なパーツだけ用意して持って行き、後は現地生産と言う手も考えたが、それでも荷物は増えるし、専門の工兵とかを連れて行かないと作成した兵器の信頼度が微妙なことになる。


「さてと、物資の準備が終わったということは出発だな」

「はい」

「先に伝えたと思うが、優先するのは行軍速度だ。少数精鋭を選んだのもそれが理由。現場の人員で対処しきれないようであれば、後退しつつ狼煙で状況を報告」


 可能なら足止めなり竜の侵攻遅延の為の攻撃を行うというのが、副教官に伝えた表向きの目的であり、少人数での行軍を認めさせた理由でもある。戦力は教え子の中でも西の国境、もしくはその周辺出身の者を中心に十名。副教官をはじめ殆ど全員が率いる戦力をもっと増やすべきと俺に意見したが、学生を引っ張ってくるわけにはいかず、どこかに士官した教え子たちには雇い主からの仕事がある。ついでに言うなら、隣の国に竜が出現しましたなどと大っぴらに言えることではないからと言う理由もある。


「そもそも俺たちは万が一竜がこちらへ向かってきた場合の備えだ」


 北とか別の隣国にそれて警戒していたけどこっち来ませんでしたよ、なんて言うのもありうる。前世でも、傘を持って行ったら雨が降らずにただ荷物が増えただけということが何度あったことか。まぁ、ここで来るはずがないとかフラグを立てるとこっちに来る気がするので敢て言わないが。


「こちらへ向かってきたと言われると、特別魔法教官は竜が別の国に向かうと思われますか?」

「俺はその竜ではないのでな。どちらに向かうつもりかはわからん。種族的な特徴でもわかれば、些少なりとも予測は立てられたかもしれんが」


 例えば、爬虫類や両生類系なら寒いところは苦手だろうから北に向かう可能性は少ないな、と言った具合に。


「東の隣国は南東が海に面し、南は砂漠、北は夏でも雪を頂きに関した山岳地帯が多い」


 その山岳に雪雲が引っかかるのか、北の国は雪の国と言う別称すらもつ冬場は厳しい国だ。


「この季節でも北側の国は雪が降ることがあるからな。寒さを苦手とする竜なら北はほぼありえないが」

「確かに、情報不足では推測の立てようがありませんね」

「そういうことだ。では、出発するぞ」


 行軍中に追加情報が手に入ればいいが、それは高望みしすぎだろう。俺は副教官に告げると、部屋を出て校門へと向かうのだった。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る