第12話「超えるべき壁」*
「特別魔法教官、物資の準備が終わり次第出発できます」
殿下がやってきてから二日後、ドロシー副教官の報告に俺は承知したと告げてから、彼女にねぎらいの言葉をかけた。最強クラスの魔物と戦うことも考えられるとなれば、普通二日程度で準備が終わる筈もない。それこそ城を攻めるのに使う様な品をありったけ揃え、兵も国内の殆ど全兵力をかき集めたとしても馬鹿にする者は居ないだろう。竜はそれ程の脅威であり、恐怖の象徴なのだから。
「まあ――」
魔物の階位であるが故に強さにも幅がかなりあるのだが。以前俺の倒した嫌な竜は「ブレスを吸い込んだ対象を最初に見た同性に惚れさせる」と言う効果故に視界内に異性しかいなければ意味がなく、雌雄がなかったりもはや意味を持たない存在にも全く効果がない。例えば、無機物や死体にかりそめの命を吹き込んで操る魔法を使って戦力を揃えたとしよう。あの竜のブレスはそういった魔法生物やアンデッドには何の意味もない。
「出来れば、どういう竜なのか事前に知りたかったところだが」
戦って生き残るどころか目撃して生き残るのも難しい相手なのだ、贅沢が過ぎるというモノだろう。
「ん?」
そんなことを考えていたおり、俺はふと気づいた。コメントが一件増えている。
「『これほどコメントを見たくなる作品はそうない』か」
俺もそう思います。もっとも、意味合いはちょっと異なってくるだろうが。
「しかし、ハードルか……」
俺としては自分と視野の違う人の意見から状況を打破する思い付きに繋がることもあると思うので、そう気負わず気軽にコメントしてほしいところだが。
「いや」
こう、食事しようと思ったら竜が襲ってきてご飯を食べ損ねつつ戦ってるタイミングで、「今日の夕飯ハンバーグだった」とか言う飯テロはやめていただきたいかもしれないが。
「特別魔法教官? どうされました?」
「ん?」
「いえ、ハードルがどうのと」
しまった、思考の一部が声に出ていたらしい。
「あ、ああ、それはだな……未だ見ぬ竜は俺のハードル……超えるべき壁となりうるか、とな」
「なるほど、そう言うことでしたか」
「ああ」
ふぅ、何とか誤魔化すことができたらしい。
「いかんせん情報が少ないからな。大国すら滅ぼす魔物だ、弱すぎて準備運動にもなりませんでしたということはないだろうが」
「そう、ですね」
やはり情報不足なのは痛い。いっそのこと、こっそり一人で隣国に密入国し強行偵察してくるべきだろうか。
「ふむ」
世に出しては拙い魔法のいくつかを使えば、安全かつ誰にも知られることなく偵察することはおそらく可能だ。ただ、竜を発見した場所が村や街で人が襲われていた場合、黙って見殺しにできるかと言われると、ちょっと自信がない。
「そもそもな」
仮に見過ごせず竜をその場で倒してしまうと色々な意味で問題が発生する。竜の躯は魔法の威力を高める補助具などに加工するとチート装備と化す。あの思い出したくない竜の素材で試しに補助具を作ってもらい、モヤモヤしつつも装着して魔法を行使したところ判明したのだが。
「あれは酷かった」
おおよそ魔法の威力が十倍に強化されるというぶっ壊れ仕様だったのだ。強奪されて敵国に使われたらシャレにならないのでと言う理由で俺が封印を提言し、陛下も受け入れられて忌まわしいチート補助具は封印された。竜の躯の警備も一層厳重なモノにして貰い、あの腐れ竜との縁はもう切れたと思う。
「って」
なぜだろう猛烈に今のがフラグだった気がする。こう、強奪された補助具を手にした敵国の工作員と最強主人公ちゃんが戦うとか、そう言う展開の伏線っぽく思えて仕方がないような。
「いや、気のせいか」
気のせいだよね。気のせいだと思う。気のせいってことにしておこう。
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