番外「出会い・後(最強主人公?視点)」

「――仮にその小細工がうまくいって入学できたとしてもインチキに頼ってぎりぎり合格できたような輩がここでやっていけると思うのか? ついていけず自分から辞めてゆくのが関の山だ」


 ボクの思考が過去に沈んでいる間に話は進んでいたみたいだった。知覚したのは、話の途中からだったけれど、これはボクが何か細工をしていたらと言う前提の話かな。


「ついでに言うなら、入学試験すらパスしていない試験者の稚拙な小細工に俺たち教官があっさり騙されると? それは俺たちに対する侮辱でもあるのだが、理解して口をきいているのか?」


 途中からだったけれど、特別魔法教官の話はもっともだった。もしボクが仮に何かしようとしても、そんな小細工は教官があっさり見破っていたと思う。それ以前にボクは促されてその「宝玉」と呼ばれた大きな球に触るまで、宝玉自体に近づいたことは一度もなかったのだけど。


「うぐっ、お、おれはノワン公爵家の嫡男だぞ!」

「だから何だ? 実家の名を出せばどうにかなるとでも思ったか?」


 どう聞いても無理のある言い分は否定され、鋭い目で公爵家の嫡男を名乗られた方を特別魔法教官は睨むと不合格を言い渡し、一喝して追い出した。もっとも、付け足された宝玉を過剰反応させておけないという言葉で圧倒されていたボクも我に返ったのだけれど。


「っ、ご、ごめんなさい」


 故意じゃないとはいえ、原因はボクだ。慌てて謝罪の言葉とともに頭を下げ。教官の人も現状を再認識したのか、手伝いを申し出ていたけれど、不要の一言で断り、頭を下げると特別魔法教官はボク達に背を向けたのが見えた。


「さて…………そうだな。無いとは思うが一応……」


 どうやって直すのか、少しだけ興味を覚えて窺っていたボクが耳にしたのは、特別魔法教官の独り言と思しきもの。そっか、ただ直すだけでなく、おかしなところがないかついでに確認してしまおうとかそういうことなんだろう。ボクが最後の受験者って訳でもないし、あの人にとっては当然のことなんだと思う、ただ。


「っ」


 そんな特別魔法教官の身体が、一瞬固まったように見え。


「特別魔法教官? どうかしましたか?」

「……いや、なんでもない」


 同じ感想を抱いたらしい教官の人の問いに、特別魔法教官は頭を振る。気にはなったけど、本人がなんでもないというなら大丈夫なのかな。


「なるほど」

「特別魔法教官はこれほど独り言の多い方だっただろうか」


 その後も時々漏れる独言に教官の人はどこか困惑気味だった。となると普段はそうじゃないのだろうか。


「これでいい……作業手順自体はいつも通りだな。これならば同じことが起きても俺をわざわざ呼ぶ必要はないだろう」


 そんな、教官の人の態度からすると珍しいみたいな光景は、宝玉から上る光が消えて、あっさり終わりを迎えた。


「特別魔法教官、ありがとうございました」

「あ、ありがとうございました」


 教官の人が頭を下げるのが見えて、ボクも慌ててお礼を言い。


「大したことはしていない。そんなことより彼女を待たせているのでな」

「え」

「彼女? ああ、補佐をされているドロシー副教官のことですね。流石は特別魔法教官。私のことならもう大丈夫です。さ、副教官のもとへ」


 訥々に出てきた彼女と言う言葉に思わず声を上げてしまったけれど、気を利かせた教官の人が説明してくれた。そっか、副教官さんのことなのか。そんな風に一人で納得して気が緩んでいたのが拙かったのかもしれない。


「すまんな。さてと、そこの受験生……」

「は、はい」


 急に指名されてちょっと上ずった声が出た。


「秘めたる才能があることは見せてもらった。だが、勘違いするな。それだけでこの士官学校の入学試験を通過できると思っているなら、あのバカと同レベルだ」


 だけど、動揺に気づかれたんじゃないかって、気になるより早く、その人はボクにくぎを刺した。当人の魔法の天才で何人もの教え子を巣立たせて来た人の言葉だ。その人が、わざわざボクのために忠告をしてくれている。


「そして、覚えておくがいい。俺」

「あっ、あの……ボク」


 もう一度お礼を言いたかった、聞きたいこともあった。だけど、だけど、なんでボクはよりによってそんなタイミングで口を開いちゃったんだろうか。完全に何か言おうとしたのを遮ってしまった。


「なんだ? 手短にな」


 えっ。手短にって、あんな失礼をしたのに許してくれるなんて。って、そうじゃない。言わないと、謝って、お礼を言って、それから。


「特別魔法教官は……その、ボクの……」


 絞り出そうとするのに、言葉が出てこない。ああ、ボクの馬鹿っ。


「ふむ」


 悪戦苦闘して、まだ言葉を続けられないのに、この人には、何を言おうとしているのかが分かったのだろうか。


「才能はあるようだが、それだけだろう?」


 ポンと投げられた言葉。


「そも、まだ入試さえパスしていない者に何か言うのはそれこそ、あのバカと比べるのは失礼だが、癒着や不正だと見る者も出てくるだろう」


 続く言葉に、自分の考えの無さに気づかされ、恥ずかしくて顔から火が出そうになる。


「物申す気なら、まずは入試を通過して来い」

「えっ」


 思わずうつむいてしまったボクにも、声は聞こえていた。失礼な真似をしたのに、許してくれるんだ。入学試験を通ったら、話の続きをしてもいいってことですよね。なら、ボクは――。


「失礼する」


 短く告げて特別魔法教官が立ち去ったドアに頭を下げる。そういえば、あの人は副教官を気にされてた。それなのにボクに付き合ってくださったのだ。


「やるぞ」


 これで合格できなかったらあの人に顔向けできない。ボクはいっそう気合を入れて入試に臨むことを密かに決意したのだった。

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