番外「出会い・前(最強主人公?視点)」

「失礼、トラブルがあったと聞いてきたのだが――」


 そう言ってその人はボクの前に現れた。特別魔法教官、宝玉のことをボクに説明した教官の人がそう呼んだけれど、その人のことは田舎者のボクだって知っていた。この国の魔物被害を激減させた英雄にして魔法の天才。数多の強力な魔法を作り出し、惜しげもなく教え子に伝授した偉人。教えを受け士官になったこの士官学校の卒業生はボクの生まれた街に来たこともある。目的が近くの村を悩ませる魔物の集落の殲滅だったから、ただ物資を補充して通過するだけだったけど。


「お前が魔法特別教官とやらか?」

「なるほど、この反応は異常だな」


 ボクがそんなことを思い出している間に、公爵家の嫡男だと名乗られた方が聞いたけれど、それを無視して特別魔法教官はボクが触ったとたんにものすごい勢いで光を空に昇らせ、そのままになっていた宝玉を見た。


「う」


 困らせようと思ってやった訳じゃないけど、こんな有名人に手を煩わせることが申し訳なくて口から小さく声が漏れた、ただ。


「そして、宝玉をこう……し」


 ボクの方を見た瞬間、特別魔法教官はなぜか少し固まったと思う。


「子牛?」


 どうしたのだろう。そもそも子牛ってなんだろう。ひょっとして一部の人にしかわからない「ぎょーかいよーご」とか「いんご」ってものなのかな。


「あの」


 気にはなるけど、そうじゃない。ボクの中の嫌な記憶が再燃したこともある。


「その宝玉に異常がないかを調べるために来られたのですよね?」


 なんだと聞き返されたボクはただ、確認していた。その後、ボクの問いに肯定を返した特別魔法教官は宝玉を調べ始めた。


「まずいな」


 ボクが知ってるくらいすごい人なんだ調査もすぐに終わる。最初はそう思って見守っていたのだけれど、その人の口から唐突に苦い呟きが漏れた。「まずい」って、どう言うことだろう。


「いや、そうじゃない」

「特別魔法教官?」


 さらに特別魔法教官はポツリと漏らし、ボク同様に様子を眺めていた教官の人が声をかけたが、耳に入っている様子はない。


「そうだな。よし……」


 よくわからないけれど、結論が出たようで、特別魔法教官は顔を上げ。


「待たせたな。宝玉に異常はなさそうだ」


 ボク達にそう告げたのだった。良かった、ほっとした。宝玉の見せた反応に、ボクの前に宝玉に触った公爵家の嫡男だと名乗られた方がインチキだと騒がれていたのだ。


「はぁ? ふざけるな! 異常がない訳がないだろうが!」


 もっとも、その方は納得がいっていないようだったけれど。


「この宝玉の反応を見る限り、確かに才能はあるようだ。それも近年まれにみる……な。だが、勘違いするな。これはただ才能を調べるだけのモノだ。入試に合格した訳ではないし、判断基準の一つにはされるだろうが、合格か不合格かが決まった訳でもない」


 激昂し怒号を発した公爵家の嫡男。そんな身分ある相手にも関わらずそちらは見ないで、特別魔法教官はボクをちらりと見てから言う。ボクに対してくぎを刺す意味もあっての発言だとは思うけれど、認めてくれたことが嬉しく口元が綻びそうになるのとボクはただひたすらに戦わなくてはいけなかった。


「化け物」


 生まれ育った街でボクは周りからそう呼ばれていた。今になると、この魔法の才能と言うのが原因だったのだと思う。怒ったとき、近くにあった物が急に壊れたり、石を投げてきた近所の子供が触ってもいないのに吹き飛んでけがをしたり。ボクの周りで度々起きる謎の現象にお父さんやお母さんまで恐れて、誰も近寄らなくなった。街にボクの居場所なんてなくて、だからボクはこの士官学校への受験を決意したんだ。成績が優秀なら学費は免除されるって言うし、あのよくわからない現象もここでなら何かわかるんじゃないかって思ったから。


「それに――」


 誰かを傷つけるしかないモノも、人に害を及ぼす魔物を相手に起きたなら何の問題もないんじゃないかとも思ったから。



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