第7話「これが俺の全力だ」


「これでいい」


 宝玉の反応の初期化自体はそれほど難しいものではない。だからこそ、作業はっさり終わった。終わってしまった。こんな簡単な作業に時間をかけすぎては訝しまれてしまうので仕方のないことなのだが。


「作業手順自体はいつも通りだな。これならば同じことが起きても俺をわざわざ呼ぶ必要はないだろう」


 どちらかと言えば、問題なのはいちゃもんをつけてきたあのバカだと思うので、排除した以上また俺が呼ばれるようなことになるとは思えない。あるとすれば最強主人公ちゃんが実技試験で何かやらかしてというパターンになるか。


「特別魔法教官、ありがとうございました」

「あ、ありがとうございました」


 ここの担当教官と主人公ちゃんが俺に頭を下げる。さあ、予防線だ。ここで一言予防線を張って、それから踏み台転生者っぽいことを口にして去れば、今回のミッションはクリアしたとみて良いだろう。


「大したことはしていない。そんなことより彼女を待たせているのでな」

「え」


 いろいろ想定外で認識から吹き飛んでいたが、この場には俺を呼びに来た副教官が居ない。最強主人公との対面と言うイベントの前だったことを鑑みれば、入室時にここで待てと待機を指示しても良かったのだが、それを忘れたというのに未だ何の反応もなく。気を利かせてくれたのか、俺がここに入ってきた後で何かあったのか。なんだか後者である気がするのは、俺がこれまでにさんざん厄介ごとを押し付けられてきたからだろうか。


「彼女? ああ、補佐をされているドロシー副教官のことですね。流石は特別魔法教官。私のことならもう大丈夫です。さ、副教官のもとへ」


 ちょ、俺の防衛線がっ。たぶん初対面の最強主人公ちゃんにも気を使ってわざわざ説明を入れたのであろうが、台無しだった。こう、恋人がいるからもうお前らの相手はしないよ的な意味の発言のつもりが、完全に部下を気遣っての一言になってしまっている。まぁ、確かに未だ入ってこないドロシーのことも気になるから、この場にとどまり続けている訳にもいかないのだが。


「すまんな。さてと、そこの受験生……」

「は、はい」

「秘めたる才能があることは見せてもらった。だが、勘違いするな。それだけでこの士官学校の入学試験を通過できると思っているなら、あのバカと同レベルだ」


 こう、勘違いするなってつけるだけで言っててただのツンデレ発言っぽくなってしまった気がするが、ここからが本番だ。やれ、俺。ミスは許されない。


「そして、覚えておくがいい。俺」

「あっ、あの……ボク」


 うぉい、主人公ちゃん俺のセリフにかぶってこないで。と言うか、この娘ボクっ娘なのか。って、そうじゃない。


「なんだ? 手短にな」


 早くしてくれないとせっかく考えたセリフが陳腐化する。と言うか、ドロシーも気になるから早く、なんて本音は出せず俺は先を促す。


「特別魔法教官は……その、ボクの……」

「ふむ」


 まだまごつくところを見て、俺は理解した。そう言えば、今の自分を顧みるとあのバカの言いがかりから助けた形になる。それで好意を持ったとかそんなチョロい人物とは思わないが、念のため突き放しておこう。


「才能はあるようだが、それだけだろう?」


 お前のことなんて気にしてないよという訳だ。


「そも、まだ入試さえパスしていない者に何か言うのはそれこそ、あのバカと比べるのは失礼だが、癒着や不正だと見る者も出てくるだろう」


 そして、言い分へと真っ当な理由づけ。


「物申す気なら、まずは入試を通過して来い」


 今のお前では話にならんと言外に言い、失礼するとだけ残して踵を返す。一応担当教官もこの場に居るのだから、あまり不自然な発言をすると後で自分の首を絞めそうだ。だから、今はこれでいい。自分の反応に及第点と評価し、俺はドアノブに手をかけた。

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