第6話「危うく声が出るところだった」*


「さて……」


 そして、俺は宝形を元通りにするため作業するという名目で再び考える時間を得た。もちろん、宝玉の反応停止作業はちゃんとやるつもりではあるが、考える時間が作れたのは、本当にありがたい。


「俺の役目は終わった。あとは任せる」


 ぶっちゃけ、宝玉を元に戻してからそう告げてこの場を後にすることも出来るのだが、当初の係であった教官を除けば主人公ちゃんしかいないこの状況をふいにするのは、違うというかもったいない気がする。踏み台転生者としての立ち位置を補強するにはもってこいの状況だと思うのだ。もちろん、出方次第や接し方次第で逆効果にもなるだろうから万全を期す必要はあるだろうが。


「そうだな。無いとは思うが一応……」


 せっかく備わった能力だからと俺は感想を確認する。まぁ、相変わらず寂しいままだとは思うが、もう慣れた気落ちするほどのことではない。


『一件のコメントがあります』


 そう思っていたからだろう。脳内に浮かび上がった一文に気付いた瞬間、俺の思考は一度停止した。


「っ」

「特別魔法教官? どうかしましたか?」

「……いや、なんでもない」


 危うく声が出るところだった。落ち着け。そもまだどんなコメントか確認すらしていないのだ。


『この話○○で連載されていた××にそっくりですがパクリですか?』


 とか。


『つまんないです』


 とか、期待して確認したところでただの叩き感想だった場合、俺は激情を抑え込める自信がない。


『△△を主人公にして◇◇の世界にトリップしたお話を書いてほしいです』


 とかだったら、そりゃただの要望だと言うツッコミを抑えきれるかどうか。だいたい、これが掲載されているところは二次創作OKなのかとか言う問題もあるがって、そんなことを考えている場合じゃない。確認せねば。確認せねば、何も始まらないではないか。俺は意を決してコメントの閲覧に踏み切り。


「ぐ」


 歓喜をかみ殺す。真面だ、ちゃんとした感想だったのだ。声には出せないが、胸中でありがとうと呟く。こう、既存の作品に言及した部分は著作権とかこれが掲載されてるところの掲載ルールに引っかかる恐れがあるので申し訳ないが、スルーさせてもらうとして。


「新しい作品」


 そう評していただけるのは、ありがたいと作者なら言っただろうか。ともあれ、こうして感想がここまで直接ダイレクトに作品内へ影響を及ぼす作品と言うのは当事者になってる俺としても見たことはない。だが、読者参加型と言われる小説であれば、前世でそれなりに読んだ覚えがあるのだ。


「アンケートで今後の展開を予想する」


 だとか。


「チョイ役やアイテム名なんかを感想などから公募する」


 というモノだ。読者側も書く必要を求められるが、リレー小説とか同じ世界内の出来事として複数の作品を扱うシェアワールドノベルなんて言うモノもあったと思う。商業ならこのPBWと言うモノもある、前述したモノとはいろいろ異なるが興味があるなら調べてみてもよいかもしれない。まぁ、沼にハマってしまったどうしてくれると言われても責任はとりかねるが。


「っ、いかんな」


 うれしさのあまりついうんちくを脳内で延々語ってしまったが、そうじゃない。大事なのはその先の部分だ。感想では、俺についてまだ「仲間ポジの可能性は消えていない」と指摘してくれていた。


「なるほど」

「特別魔法教官は……ほど独り言の……方だった……うか」


 ごもっともだ、とは言えその半分は敢て考えないようにしていた部分なのだが。俺の偏見かもしれないが、中途半端に能力が高い味方側のキャラと言うのは、かませと言うか強大な敵の強さを表現するために犠牲になる役回りだと思うのだ。こう、若き日の過ちとはいえひたすら研鑽し高めた力が「敵が強いですよー」と言わしめるためだけのモノだったと判明したら当事者としては凹む、この上無く凹む。だから俺は考えないことにしていた訳であり。


「主人公の先達で、何らかの決戦で主人公を庇って死ぬ」


 と言うのは、ありえないと思っている。基本苦戦しないのが最強主人公モノだし、あの光の柱立ち上らせた主人公ちゃんを身を挺して庇わなければいけない戦場なんて足を踏み入れただけで生き残れる気がしないです。強いてあるとするなら、まだ才能が実力に転換されてない物語の序盤だが、それならものすごくありそうな気がして嫌なので、やっぱり考えないことにさせてくださいお願いします。こう何回殺すねんとツッコミたくなるほど回想シーンで何度も殺されるのは勘弁してほしい。


「まぁ、それもあくまで可能性の域を出ないしな」


 一応気を付けはするとして、あとは――。


「女主人公だからヒロインポジで伴侶になる」


 なるほど、逆ハー以外のパターンか。これについては割とあっさり回避する方法がある。俺が誰か別の異性と交際すればいいのだ。小さい頃は自分の力を高めるため、現在は押し付けられる厄介ごとに忙殺されて彼女いない歴が年齢を超えてはいるものの、本気を出せば彼女の一人や二人すぐにできると思うのだ。踏み台にされる前に作ると巻き込まれてしまうから自重してるだけで、本気を出せば、きっと、たぶん。俺はやればできる子だと思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る