番外「ノワン公爵の憂鬱(公爵視点)」


「父上、あの特別魔法教官とやらを免職にしてください!」


 士官学校の入試を受けに行っていた筈の息子が返ってくるなり口にした第一声がそれだった。


「その特別魔法教官と言うのは、ひょっとしてあの魔法作成者殿のことではなかろうな?」


 信じたくないので、ワシは一応確認をしてみた。


「ああ、そんな大仰な名で呼ばれてもいるようですね、ですが」

「はぁ……」


 外れてほしいと思った予想が的中したことにワシは嘆息する。


「愚か者。魔法作成者殿を馘首しろだと? そのようなことあの学校の校長でも出来ぬわ!」


 そも、あの士官学校は、獣などが変異して発生し人や人が住まう場所を害する魔物たちと戦う兵の士官を育成する場所だ。魔物と言う忌むべき者どもが発生するようになって人と人との戦は絶えて等しい。逆に言うならそれだけ魔物は脅威であったわけだが、あの男、魔法作成者と呼ばれる男が現れたとたん、わが国においてはそれが変わった。


「例えば広範囲攻撃魔法。今までは範囲内に居る敵味方を関係なく被害を及ぼすモノであったわけだ」


 だが、あの男の魔法は敵だけをより分けて攻撃することができた。これがどれだけ革命的なことだったか。傷を癒す魔法などと言うとんでもない魔法を作りだしたのもあの男だ。過去には魔法を転用して傷の手当の補助に使った者も存在したが、直接傷を治す、しかも現実では起こりえぬ速さで傷を癒す魔法などを作り上げたのはあの男が初めてであった。


「誰も見たことが無く、独創的かつ強力な魔法の数々。生み出されたそれらによって魔物どもは今までの苦戦が嘘だったかの様にあっさり駆逐されるようになった。最初はかの魔法作成者殿のみがその力を振るったが――」


 請われて教官となりそを教え子たちにも伝授したことで、強力な魔法を行使する者が増え、あの男の教え子たちを配下にと魔物の被害に悩まされた領地を持つ者達は誰もが望んだ。ワシも例外ではなく、結果としてワシの所にも三名、あの男の教え子が居る。


「……と言う訳なのだが、もし魔法作成者殿を馘首になどと喚けばまず間違いなくかの者達が下野するわ! 魔法作成者殿の関心を買いたい者もこぞって敵に回るだろう。それ以前にあれ程優秀な者をどういう理由で馘首しろと言うつもりだ!」


 はっきり言ってこの愚かな息子が口にしたのはこの国のほぼすべてを敵に回してくれと言ったに等しい。


「な、そんな……」

「お前はものを知らなすぎる。かの教官によって変わりつつある今を知るならあの士官学校に勝る場所はないと思うて行かせようとしたというのに」


 その当人に喧嘩を売るとは。


「はぁ……お前は自室で謹慎しておれ」


 ワシは頭を抱えた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る