第5話「孤独な戦い」
「待たせたな。宝玉に異常はなさそうだ」
注目されている理由は不明だが、宝玉を調べていた以上、言うべきことは言わなくてはならない。
「はぁ? ふざけるな! 異常がない訳がないだろうが!」
即座にバカが一人喚き散らすが、無視する。そも、宝玉の確認自体はこの場に居た教官でも可能だった筈なのだ。俺を呼ぶまでもなく、調査して異常がありませんでしたよで普通ならすむ話である。そう、家格をかさに着たバカがいちゃもんをつけでもしなければ。身分的には逆らうことのできなかった担当教官としては俺に頼らざるを得なかったのだろう。
「この宝玉の反応を見る限り、確かに才能はあるようだ。それも近年まれにみる……な。だが、勘違いするな。これはただ才能を調べるだけのモノだ。入試に合格した訳ではないし、判断基準の一つにはされるだろうが、合格か不合格かが決まった訳でもない」
それが、喚いたどこかのバカがバカたる所以だ。魔法の才能の有無だけで受験者をうちの士官学校がはねることはまず無い。
「この士官学校の卒業生の中には魔法の才能が皆無だった者も居る。他の試験で合格を勝ち取る力がなくて宝玉に細工をして何とか合格しようとする? なんの冗談だ、仮にその小細工がうまくいって入学できたとしてもインチキに頼ってぎりぎり合格できたような輩がここでやっていけると思うのか? ついていけず自分から辞めてゆくのが関の山だ」
はっきり言って、宝玉に細工をするリスクにはとても釣り合わない。
「ついでに言うなら、入学試験すらパスしていない試験者の稚拙な小細工に俺たち教官があっさり騙されると? それは俺たちに対する侮辱でもあるのだが、理解して口をきいているのか?」
ただの教官であればこんなことは言えないだろうが、俺は違うし、さらっと流すつもりもない。そもこの手の輩はどれだけ正論を口にしても聞く耳を持たないことを経験から知っている。真面に相手にするだけ時間の無駄、ゆえに手っ取り早いのはこうして威圧することであり。
「うぐっ、お、おれはノワン公爵家の嫡男だぞ!」
「だから何だ? 実家の名を出せばどうにかなるとでも思ったか?」
家名に縋るバカを俺は冷めた目で見つつ問う。ちなみに正解は、どうにもならないだ、むしろ状況は悪化する。
「いや、それならいい……ならば、たった今をもって俺の特別魔法教官の権限をもってお前は不合格だ。家に帰るがいい」
「な」
「俺はこの士官学校の教官をやるにあたり、恐れ多くも国王陛下よりいくつかの権限を頂いている」
つまり、コイツの親が国王でもなければ、この裁定は覆らない。俺としては、最強主人公ちゃんに絡んで嫌がらせをする役回りとしか思えないバカにいられては不都合と言う理由もあるが、こんなバカを入学させたら他の教官たちや同級生の頭痛の種にしかならない。第一、主人公ちゃんの踏み台はこの俺だ。ただのバカに時間を取られて俺が踏み台になるのが遅れるのは困る。厄介ごとを押し付けられる期間が延びるのはご免だ。
「わかったら、さっさと帰れ。俺にはまだやることが残っている。宝玉の機能は正常だが、こんな過剰反応させたままにはしておけんからな」
「っ、ご、ごめんなさい」
「あ、特別魔法教官、手伝います」
「不要だ。一人で事足りる」
主人公ちゃんが、慌てて頭を下げ、担当の教官もこちらに寄ってきたが俺は両者に手を振って拒絶すると宝玉に向き直った。とりあえず、この場は凌げたとみていいだろう。ああ、危なかった。
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