第3話「ただ一つの想定外」
「しかし、気にならないと言えば嘘になるな」
現時点で俺が知っているのは、あの光の元に居るのが俺を凌駕する魔法才能の持ち主であるということだけなのだ。最高系主人公くんであろうというのは俺の持つ特殊能力を裏付けとした予測に過ぎない。
「名前も顔も出身もすべてを俺はまだ知らないわけだが」
ある公爵のバカ息子が言いがかりをつけたということで、少なくとも公爵以上の子息ということはないと思うが、貧しい村人の子供だろうと入試には望むことができる。成績が優秀であれば、そこから奨学生として学費が免除されることもありえ。実際、それで貧しい農民から士官となりなりあがった人物の例が幾人かあるのだ。
「あの才能なら、農民の出だったとしてもほぼ間違いなく入学試験はパスするだろうな」
筆記試験や当人の態度に問題があったとしても、あの才能を野放しにするのは危険すぎる。よほどの馬鹿で無ければ手元に置いて管理することを考えるだろう。その結果、才能の活かし方をこの士官学校で得て誰も止めることの出来ない最強主人公が爆誕してももう俺は驚かないのだが。
「出来ることなら――」
誰か、主人公君を御せる人物が登場してくれることを望む。俺は踏み台なのでその役はこなせないが、止めることも方向を変えることもできない強力すぎる力などただの災厄だ。誰も御せなければ、待っているのはロクな結末ではあるまい。
「その辺りを踏まえても」
最強主人公くんを俺は見定めなければならない。窓から陽光の差し込むいつも通っているはずの廊下がいつもより長く感じた。すれ違う学生はなく、窓の向こうのグラウンドからはランニングでもしているのか、規則正しい複数の掛け声が聞こえてくる。あんな光が立ち上っているのによく平静でいられるなと思い、一度だけ窓の外を見ると、そこに居たのは重々しい全身鎧をつけた人影の群れ。
「そうか」
重装備をつけての訓練なら視界の狭さであの光に気が付かなかったとしても納得は行く。おまけに今俺の居る廊下を含む校舎が目隠しになって、直接宝玉のあ辺りはあのグラウンドからは死角なのだ。
「とはいえ、あれは一部の例外だろうな」
他にも窓があちら側に面していない教室で授業を受けて居る学生たちも気づいていないとは思うが、俺同様に立ち上る光を見た学生や教官の方が多いと思う。
「やはり」
そう考えるなら、運が良い。この機を逃せば、あの光を目撃した学生や教官が最強主人公くんの元に押し寄せて観察などと言っている余裕などなかったはずだ。気が付けば長いと感じていた廊下も通り過ぎ、右手に曲がった先のドアを開ければ、いよいよ最強主人公くんとのご対面が待っている。
「失礼、トラブルがあったと聞いてきたのだが――」
「ああ、特別魔法教官。お待ちしておりました、どうぞ中に」
ノックしてから声をかければ、安堵を含んだ返事が俺に入出を促し。
「お前が魔法特別教官とやらか?」
ドアをくぐるなりかけられた声は無視して、俺は周囲を見回した。相変わらず光を立ち上らせているのは大人でも一人では抱えられない程大きな宝玉。
「なるほど、この反応は異常だな」
呼ばれた内容が内容だけに、まず宝玉を見なければ不自然だ。
「そして、宝玉をこう……し」
こうしたのがお前だな、と続けようとした俺は言葉を失った。まず宝玉を見たからすぐ気づかなかったのだが。
「子牛?」
キョトンとした表情で首をかしげていたのは、一人の少女だったのだ。士官学校への入学希望だからか、後ろ髪は短くしているものの、胸のふくらみを見て華奢なで女顔な少年と言うのは無理があった。
「っ」
どうやら最強主人公は最強主人公くんではなく最強主人公ちゃんであったらしい。これが俺にとってただ一つの想定外であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます