第2話「そして俺は主人公を知るべく」


「特別魔法教官、大変です! あれを」


 どうぞとドア越しに俺が声をかけると勢いよくドアを開け入ってきた人物は窓の方を指さした。


「『あれ』と言うと雲を突き破っている光のことかい? それなら、言われるまでもなく気づいていたが」


「いえ、そうではなくて……あ、ええと、まったく違っているという訳でもないんですが……」


 振り返り指摘すると煮え切らない態度を見せたこの人物の名はドロシー・フレストン。俺が生徒たちに指導をする際のサポート役である副教官であり、俺のサポートを押し付けられたと考えれば俺以上に不遇かもしれない女性だ。当然の如く俺より年上で、輝かんばかりの金の髪を頭の後ろで結い、碧の瞳は大き目、若干童顔にも関わらずやたら胸が大きく、時折目のやり場に困る。


「って、そうではなくて……」


 いけない、いけない答えを待っているうちに全然関係のないことを考えていた。しかし、この女性が俺のサポート役と言うのもこの物語を書いてる輩が胸のおっきな女の子さえ出しておけば人気出るだろとか安易な考えで決めたものではあるまいか。


「っ、いかんな。また余計なことを考える。それよりドロシー、結局何が大変なんだ?」

「あ、そうでした……実は、あの光というか、反応の原因である受験者にノワン公爵様の御子息が言いがかりを」

「あー」


 待つのはもうやめて直接問えば、返ってきた答えにおおよその展開を察し天を仰いだ。ベタだ、ベタすぎるだろうと。口には出さず繰り返す。


「ノワン公爵の子息と言うと、アレだな。こう、アレであれと名高い」


 率直に言うとバカ息子と言う奴だ。身分だけはやたらあるバカ息子が最強主人公くんのありえない才能を見てインチキだろうとか言いがかりをつける。


「それで、言いがかりをつけて返り討ちに遭った、と?」


 ここまでお約束なら行くところまで行っているだろう。


「いえ」


 確認してみると、ドロシーは意外なことに首を横に振り。


「不正を明らかにするためにも特別魔法教官を呼べ、と」

「ああ、そうか」


 魔法関係となれば俺が指名されるのは至極妥当だ。そも、宝玉の異常な反応のことをかんがみれば、言いがかりがあろうとなかろうと俺は呼ばれることになっただろう。ちなみに、俺が現場でなくこうして学校内で俺にあてがわれたこの私室にいるのは、見た目の年齢が学生の俺が立ち会うと紛らわしいからに他ならない。入試前の簡易な才能チェックでもあるし、俺がわざわざ足を運ぶまでもなく他の魔法担当教官で事足りていたというのもある。


「まぁ、いい。それならいかねばならないな」


 俺としても最強主人公くんの顔が拝めるのはありがたい。踏み台転生者るとしても、タイプによって対応の仕方だって変える必要があるだろう。それに今回は言いがかりをつけたバカ息子くんに主人公くんの意識は向いているはずだ。あまり目立つことなく主人公くんを観察するチャンスでもある。


「では、行こう。待たせてトラブルが発展してもまずい」


 場所はわかりきっている。ドロシーの返事を待たず、俺は部屋を出ると件の場所へ向かうべく歩き出した。

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