主人公は最強で俺は踏み台転生者らしいが全然かまわない
闇谷 紅
第1話「窓の外に才能と言う光を見た」
「そう言えば、最後に小説サイトで確認したら上位はほとんど主人公最強モノが占めてたっけ」
話を聞いて、俺は窓の外を眺めながら独り言ちた。いい天気だった、空は晴れ渡り、浮かぶ白い雲が視界を両断するように伸びた光の柱に貫かれている。士官学校の入学試験に挑む若者たちの魔法適性を図る宝玉が光の立ち上っている場所にはあった様に記憶している。
「異世界転生で魔法アリのファンタジー世界、ここまででも十分ベタな二回目の人生なんだがなぁ」
気が付いたら手の付けられないところまで進行していた病気でこの世を去って来世で俺が転生したことを知覚したのが、確か五歳。前世の意識と記憶が蘇り、情報を処理しきれず知恵熱を出してぶっ倒れるというところまでお約束のパターンを踏みとおした。
「ここまでお約束のオンパレードなんだ、あの光をぶっ立てたのが物語でいうところの主人公ポジションなのはこう、もうほぼ確定って感じだよなぁ」
そして、主人公的な存在が登場したなら、俺の役どころはおそらく踏み台転生者と言う奴だろう。今世も幸いなことに同じ男であるから、ヒロイン的立ち位置はあり得ない。だが、モブになるような生まれでもなく。
「まぁ、転生者だったら誰でもやらかすよな」
前の人生で蓄えた知識を生かし、今世でより良い立ち位置をと言う奴だ。スタートにもよると思うが、相応に前世の経験を活かせるなら、転生自体がある種のチートである。そのアドバンテージを活かした結果、俺は神童扱いされ、調子に乗った。魔法のある世界だから魔法を極めてやるとばかりに前世の知識で勉強の必要が無くなった一部の学問の時間を魔法の修練につぎ込み、前世の創作物に出てきた魔法理論やら何やらを参考に再現実験を行い、他人の褌で相撲を取ったようなモノなのに、数多の魔法を作り出した天才扱いをされるに至った。
「おかげで今や魔法の第一人者……つっても、この分だとあと一年もこの位置キープできてれば御の字だよなぁ」
いまだに窓の外では光が立ち上り続けているのだが、ぶっちゃけ、俺では何をどうやったってあんなことは出来ない。
「取って代わられるのも時間の問題、ね。結構結構」
正直に言うと、魔法の第一人者の椅子になど未練はない。ないどころか、今すぐにでも譲りたい。
「どいつもこいつも『天才』だから何とかしてくれるって厄介ごと持ち込んで来るんだもんなぁ」
俺はみんなの雑用係ではないのだ。気が付いたらまだ学生の年齢にも関わらず特例とかで士官学校の魔法を指導する教官とか押し付けられたりしているし、その都合で士官学校は飛び級扱いで卒業もしているのだが。
「新入生にはだいたい学生と間違われるんだよなぁ」
あの光の元に居るであろう非常識な才能の持ち主も去年の新入生よろしく俺を学生と間違えるのではと、そんな予感がしている。
「創作物の世界だからな、ここ」
げんなりしつつ嘆息する俺には転生特典とも言うべき不思議な力があった。その名は、感想閲覧。この物語に寄せられた感想を閲覧することが出来るという能力であり、いやがおうにもこの世界がどこかの人間の書いたモノであると俺に知らしめた能力でもある。
「いや、まだその感想とやらもゼロなんだが」
きっと文才がゴミで誰の手にも取られないようなへぼ作者なのだろう。おかげでこの能力は殆ど死んでて役に立たない。
「まぁ、いいさ。最強主人公君が大活躍してくれれば、俺は誰にも厄介ごとを押し
付けられず第二の人生を謳歌できるんだからな。チーレムだろうが俺に火の粉が降りかからないなら好きにやってくれて構わない」
その代わりと言ってはなんだが、俺は主人公君が成り上がるための程よい踏み台になることにしよう。こう、その地位を追われて逃げるように他国に去って、そこで慎ましく暮らすとかでも良いだろう。教官として働いているので給料は貰っているし、こんなこともあろうかとそこから貯金だってしている。
「そうだ、今のうちに逃亡先の国をどこにするか決め――」
決めようかと思ったところでだった、背後にあるドアが控えめにノックされたのは。
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