27万円の妻

@ocean-y

第1話

 明日は僕たち夫婦の結婚3周年記念日。だから、妻をあっ、と驚かせるサプライズを計画中だ。いつも僕の言うこと、そしてやることを何ひとつ文句を言うことなく、常に一緒にいてくれる僕の妻。本当に感謝しているんだ。だから、この記念日は妻を喜ばせてあげたいと思っている。

 まず、部屋の壁に飾り付けをしようと思う。よくクリスマスに使われる派手なキラキラした飾り付け。名前はよくわからない装飾品だけど、とにかく派手にしたいんだ。なぜ、外出してお洒落な店でディナーを食べ記念日を祝わないかって、それは、僕の妻はあまり外に出たがらないんだ。だから美味しいディナーは僕が作ろうと思う。

 妻は、イタリアン料理が好きだ。だからパスタを作って、最後にケーキを一緒に食べようと思う。そのあとは、僕が妻に内緒で用意していた指輪をプレゼントしようと思う。喜んでくれるかな?だって僕の妻は無口な方だから……。

 でも、そんなことは関係ない。僕は妻を愛しているんだ。記念日を一緒に祝えるだけで、一緒の時間を過ごせるだけで僕は最高に幸せなんだ。

 今はもう僕の妻は寝ている。こんな時間だし僕も寝ることにするよ。

 

 今日は結婚3周年記念日だ。僕は妻の驚く顔を見るのが楽しみでわくわくしている。

 まだ僕の妻は寝ているようだ。さて、サプライズの準備に取り掛かるとしよう。まず、事前に買っておいた飾り付けを壁に取り付ける。そして妻の寝ているベッドからリビングまでバラの花びらを撒いてバラの道のように施す。これも僕なりに考えたサプライズだ。ロマンチックだろう。次に、料理に取り掛かる。腕によりをかけて作るよ。妻の好みの味付けだって、なんでも知っているんだ。ケーキは少し甘さを控えめにしておこう。料理を皿に盛り付けてダイニングテーブルに並べる。席は向かい合って座るんだ。

 おっと、もうこんな時間だ。ちょうどランチタイムになってしまった。でもちょうどいいか。そろそろ妻を起こしてあげようかな。僕の妻はなかなか一人では起きられないんだ。

「おはよう。もうお昼だよ。そろそろ起きようか」

僕は妻を起こしてあげた。

「今日は何の日か知ってる?」

妻は優しく微笑んだ。

「うん、そうだよね。記念日だよね。じゃあ一緒にダイニングルームへ行こうか」

そう言って僕は、お姫様だっこのように妻を抱えた。僕の妻は歩けないんだ。だからいつも僕が抱えてあげている。でも今日は特別な日だからお姫様だっこをするよ。ロマンチックにしたいからね。そしてダイニングルームへ向かう。

「下を見てごらん?バラの道だ。綺麗だろう?」

妻は嬉しそうに微笑んでいる。

「さぁ席に座ろう。」

椅子に座られてあげた。妻の目の前にはごちそうが並んでいる。

「僕が腕によりをかけて作った、君の好きなパスタだよ。味付けには自信があるんだ。さぁ食べようか」

そう言って僕はフォークでパスタを巻きとり、妻の口に運んであげた。

「おいしいかい?」

そう聞くと妻は嬉しそうに微笑んでいた。

「僕も食べてみようかな」

一口食べると、「うん、上出来だ」そう思った。

「ケーキも食べてみてくれない?」

妻の口までケーキを運んであげた。妻はおいしそうに微笑んでいた。

「料理はどうだったかい?そうか。おいしかったか!それはよかった。でも、まだこれで終わりじゃないよ。君のために用意したものがあるんだ。さぁ左手をこっちに」

そう言って妻の手を握って僕に近づけた。そしてそっと薬指にリングをはめた。妻の左薬指には一粒のダイヤモンドが輝いていた。

「君のために買ったんだ。喜んでくれるかい?」

妻は今まで一番の笑顔を見せた。



ピンポーン。

インターホンが鳴った。しかし「今は妻との大切な時間なんだ。」そう思っていると、

カタンッ

封筒が郵便受けに入れられた。

「ごめんね、ちょっと待っててね」

そう妻に言って玄関へ行き、封筒を取り出した。

「督促状……。」

僕は静かにそれを開けて読み進めていった。

「期日までに270,000円を上記の口座にお振込みされない場合、法的手段を取らせて頂く場合がございます……愛人形工業株式会社。」

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