あの夏、あの日、あの時に出逢ったあの人へ
こたろうくん
三年前のあの夏、あの日、あの時にであったあの人へ
ただ、ただごめんなさいと、そう告げたい。
きっと私は、三年前よりもずっとずっと、あの時よりもっとずっと強くなった貴方と、きっともう二度と同じようには闘えない。
貴方に負けてしまわないように、これまでの勝利の上に胡座をかいてしまわないように、私も強くなろうとしたけれど、けれど、私の運命はそうは定まっていないようです。
お互いに強くなって、死力を尽くして、結果逝くならば本望だったけれど、私は貴方に勝つことも負けることが出来ないでしょう。
悔しいです、とても。
情けないです、自分が。
どれだけの人に勝っても、天下無双だなんて呼ばれても、こんなたかが病に屈してしまう自分が情けなくて悔しいです。
もう立ち上がることも辛い。声を出すのも、なんならば呼吸と言う自然な行動すらとても辛いです。
でも、もう少し耐えます。
病に負けるのは嫌だから。
何より、貴方がやって来るから。
その時に、貴方の想いに応えられるように、また立ち上がれるように、また拳を交えることが出来るように、出来るだけご飯を食べて、美味しくない薬を飲んで、そうして備えます。
きっと貴方は私と同じだから。
私が貴方であったならと考えて行うことに間違いは無いでしょう。
私が貴方なら、床に伏せる私を見て、そして立てと言う。
どんな私を見ても、立って闘えと言うでしょう。
そして応える。
私が貴方でも。
貴方が私でも。
だって私は闘うことが大好きだから。
だって貴方は闘うことが大好きだから。
闘うことでしか自分を表現できないから。
三年も待ちました。
この日をずっと楽しみにしていました。
お互いの全力と想いを拳に乗せて、鍛え研ぎ澄ませた技と共に存分に伝え合う。
夢見ていました、そんな最強の二人の姿を。
本当に、本当にありがとうございます。
まだ私を最強の敵だと思っていてくれて。
私の体が、私の意思ではどうしようなくなってしまう前に間に合ってくれて。
だから、ごめんなさい。
もう私は、あの日のように闘うことも、あの時以上に闘うことも出来ません。
きっと、立ち上がるのが精一杯でしょう。
肉体は痩せ衰え。技は冴えを失いました。
でも、闘います。闘って見せます。貴方と。
負けるつもりもありません。負けることは、死ぬことよりも恐ろしいから。
けれどもしも、もし、貴方が私に勝ったなら。私が貴方に負けたなら、その時は、その時にまだ私に時間が残されているならば貴方に、伝えたいことがあります。
これは私だから分かること。
そして貴方はきっと分からないこと。
闘うことしか知らない、出来ない私たちだけれど、二人であれば出来ること。
私にしか出来ないこと。
そして、貴方にしか出来ないこと。
それを私は貴方に伝えたい。
出来ることならこの拳で、技で。
叶わないならば、それなら意地で伝えます。
目の前に何も無くなったその時に覚える、酷く恐ろしいものを越えるための魔法を。
ごめんなさい。
不甲斐ない私を、どうか許してください。
そして、愛しています。
私にとって貴方は間違いない、最愛の好敵手でした。
この想いは、絶対に拳で届けて見せます。
だから、ありがとう。
あの夏、あの日、あの時に出逢ったあの人へ こたろうくん @kotaro
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