第6話 開運探偵の継承

 ♪開運探偵のオープニングテーマ

 作詞/女良息子 歌/一番星くもる(CV:加藤英美里)


 あれは誰だ 誰だ 誰だ

 星か? ノン! 天使か? ノン! 黄金か? ノン!

 全部ノン~~~!!

 その名はくもる 一番星くもる(くもる~!)

 (くもる:まぁ、ジブンが放つ後光はあまりに眩しすぎるので、そんな勘違いをしてしまうのは仕方のないことかもしれませんねェェェェ~~~~!!!!!)

 今日もピカピカのタピタピでタピオカな脳細胞で謎をまるっとすりっとオ・ミ・ト・オ・シ

 目立つためなら何でもするぜ 何でもできる金ならある

 ゆけ! ゆけゆけ! 坊ちゃまァン!

 解け! 解け解け! クエスチョーン!

 かーいーうん! (デデンッ)たんってい~~~!


 それでは本編行ってみよう!












「王様なんてものを自称する奴なんて、この世にふたりもいらないんですよっ」


 常盤ソウゴの将来の夢を聞いた一番星くもるは、呆れたような顔でそのような感想を返した。

 それはまるで、王様を自称する誰かを他にも知っているような言い草だった。


「──けどまあ、と似たようなことを言うアナタだからこそ、これを渡すのに相応しいのかもしれませんね」


 そう言って、くもるは懐から何かを取り出した──時計だ。

 表面にアダムの顔が刻まれた時計である。


「ライドウォッチ……!」


 くもるが取り出したアイテムの名を口にしながら、ソウゴは驚いた。まさか、くもるがウォッチの所有者だとは思っていなかったのだろう。


「へー、『ライドウォッチ』って言うんですかコレ。随分趣味の悪いデザインをしているんで、捨てようかと思ってたんですけど、あのアダムから押し付けらr……託されていたものですから、処分に困ってたんですよね」


 くもるは在庫処分するかのような雑な動作で、それを投げ渡した。

 受け取ったソウゴは手の平に収まったライドウォッチを見つめる。こうして実際に手に持って見てみると、それがたしかな力を内包していることがよく分かった。

 このウォッチでアダムの力を手に入れれば……


「アナザーアダムに勝てるかも……!」


 突如として現れた勝算にソウゴは口元を緩ませた。


「ふはは、アダムの力を手に入れた程度で勝てると思われるとは、私も舐められたものだな」


 尺の都合上、勝算と連続して現れたのはエルメシアだ。

 大怪盗として世界を騒がせている彼女だが、ソウゴたちにとって、彼女の存在はもうひとつの意味がある──アナザーアダム。

 エルメシアはタイムジャッカーから王に選ばれ、アナザーアダムの変身者となっているのだ。

 ちなみに、この回が放送された後で特撮のオタクが『探偵と怪盗は互いがいることで存在できるもの。特に、エルメシアとアダムは「探偵に倒されるための怪盗」「怪盗のためでしかない探偵」と背中合わせの関係なのだから、エルメシアがアダムのアナザーになるのは原作ファン的に納得がいく展開。やだエモい』と感涙していた。


「はたして君は我が愛しの彼の力を十全に継承できるのかな? 戦って証明してもらおうじゃないか! ハハハァーー!!! ホォーー!!! ウホォーーー!!!」


 ゴリラみたいな叫び声と共にアナザーアダムへと変身するエルメシア!

 負けじとソウゴも受け取ったばかりのアダムライドウォッチをベルトに装着し、変身する。ウォズは祝った。


「こうしてはいられませんっ! ジブンも助勢しますよっ!」


 くもるも変身した。

 平成ライダーと探偵ライダーの同時変身は、テレビの前のお友達大喜びな絵面だった。

 変身を完了した三者は戦いを開始する──ん?

 よく耳を澄ましてほしい。

 聞こえないだろうか?

 いや、幻聴か? まさかそんなことが──否。

 否!

 幻聴ではない!

 たしかに聞こえる!

 なんと、アダム本編の戦闘シーンで流れていた挿入歌『BELIEVE ZISYOTAN』が使用されているではないか!

 これには原作ファンも大興奮。感動の涙で画面が見えなくなること間違いなしだ。

 そろそろ本編に戻らないと書く気力が尽きそうなんで、ここら辺で終わりにします。


 ★


 顔面を剥がされた有朱野が『救護探偵』の付き添いのもと別室に運ばれていくのを眺めながら、くもるは佐葉三十六子が持ってきたグラスを受け取った。

 グラスはオレジンジジュースで満たされており、くもるはそれを口内に一気に流し込む。甘酸っぱいが決して主張が激しすぎない味をしている液体が喉を潤した。その時になって、くもるは自分が登山をした後で喉が渇いていたことにようやく気がついた。


「ぷはー☆」


 よほど美味かったのかあざとい笑顔で満足を表現するくもる。

 一方、三十七子からジンジャエールを受け取ったれんげは、一気飲みしたくもるとは対照的に、ちびちびとゆっくり飲んでいた。しかもグラスを両手持ちしている。こちらもあざとい。

 広間の壁に沿うように設置されていたソファに並んで座っている彼らは、現在ティータイムならぬジュースタイムの真っ最中だった。


「それにしても、あのリボンちゃん──ええと、アリスちゃんでしたっけ?──が探偵兼アイドルだったなんて驚きですね。可愛い顔をしていたから納得ですけどぅ」

「『復讐探偵』の方に目が行っていた所為で言われるまで気がついていなかったジブンが言うのもなんですけど、もしかしてれんげさん、アリスのことを知らないんですかっ?」

「そうなんですよぅ。離島だとアイドルって言ったら松田聖子くらいしか知られてませんし」

「離島は何時代を生きているんですかっ!? ──あのアリスを、『アイドル界の一番星くもる』の異名で有名な彼女を知らないなんて、非国民みたいなもんですよっ!」


 ここで「まあ離島に住んでる時点で非国民みたいなものですけどね」なんてことを言うほど、くもるはポリティカルコレクトネスが欠如していない。この作品は人権推進小説なのだ。


「あっ、でも『偶像探偵』の名前なら聞いたことがありますよぅ」

「どうして『アリス』は知らなくて『偶像探偵』は知っているんですか」

「たしか『第二の王様探偵候補』として注目されている自称探偵なんですよね。独自の推理方法を用いて事件を解決する姿は、万人を魅了するんだとか」

「そうそう。推理中の目立ち方はジブンに匹敵するくらい派手な自称探偵らしいですよ」


 くもるはアリスの推理を見たことがなく、伝聞でしか知らないので、あくまで『らしい』止まりの話になるのだが。

 ともあれ、アリスという音に聞く有名人が自分より年下の少女であったことに、くもるは驚きを隠せないでいた。

 そして、アリスを始めとする超実力派自称探偵たちと鎬を削ることになるこれからの予定に、より一層緊張感を抱くのであった。


「ふふん、まあいいでしょうっ! 試練が困難であればあるほど、挑戦者は輝くものですからねっ! ジブンが目立つにはピッタリな舞台と言えるでしょうっ!」

「へえ、随分と自信たっぷりじゃねえか。『開運探偵』一番星くもるくんよぉ」


 絡むような口調で口を挟んできたのは、くもるたちが座るソファのすぐ近くに立ち、スマートフォンを眺めていた男だった。

 アイロンがかかっていない白シャツにくたくたの黒ズボンと、全体的にだらしない格好をしている。口元に生えている無精髭がその印象を増幅させていた。


「突然口を挟んでくるなんて失礼ですねっ! 誰ですかアナタはっ!?」

「おいおい人に名前を尋ねる時はまず自分からだろ? そういうお前は誰なんだい?」

「さっきジブンの名前を呼んでたから知ってるでしょうがっ!」

「おっと、そうだったそうだった。すまねえなあ」


 ヘラヘラと笑う男。なんとも掴み所がない性格だ。


「俺の名前は蜘蛛裂くもさき 風琴オルガン──『未開探偵』だ」

「『未開探偵』?」

「そう、未開。ご存知ないかな?」


 くもるの記憶を検索してみても、そのような名前はヒットしなかった。隣に座るれんげに目を向ける。「私も知りませんよぅ」という意思を表現するように、彼女は首を横に振った。

 ふたりのリアクションを目にした風琴は、もう一度胡散臭い笑い声をあげた。


「無名なのは辛いねえ。まあ『未開』なんだから仕方ねえんだがよ」


 風琴は嘆くように溜息を吐いた後、続けた。


「自称探偵というのは出来る出来ないはともかく『事件を解決するため』に活動しているものだが、俺の場合は違ってね。『事件を解決しないため』に活動しているのが『未開探偵』だ──どんな事件も出入り口が開かない迷宮入り。未解決事件ならぬ未開決事件ってワケよ」

「なんですかその銃が撃てないガンマンや刀を打てない刀鍛冶みたいな設定は」


 レゾンデートルが分からない自称探偵である。

 そんなものがいったい何の役に立つというのだ。


「そう非難されると辛いねえ──まあそんなわけで、俺が関わった事件は全部迷宮入りしているのさ」

「全部、ですかぁ?」


 れんげは耳を疑った。

 あらゆる事件を解決するのは難しいが、あらゆる事件を迷宮入りさせることはそれ以上の難易度だからだ。

 余程のオアでもなければそんなことは不可能である。

 名探偵ならぬ迷探偵といったところか。


「そう、だぜ。おかげで俺には功績なんてものがひとつもなく、名前が世間に知れ渡ることもないんだな。切ないったらありゃしないぜ」

「よくその知名度で『NHK』から招待状が送られてきましたね」


 この場に集まっている著名な自称探偵たちに比べれば、風琴は場違いにも程がある。故にくもるは上のようにナメた台詞を口にしたのだ。


「それは俺も疑問に思っているんだがね。どうやらこの館の主人である『会長探偵』こと文曲合理サマは随分と自称探偵知識が豊富らしい。流石『探偵名鑑トラブルメーカー』と呼ばれるだけのことはあるな──と、自己紹介はこれくらいにしてだ」


 風琴は話を切り替えた。


「お前は俺を知らないらしいが、俺はお前を知ってるぜ、くもるくん。『開運探偵』、一番星財閥の御曹司、白夜の極星、四肢の生えたゆっくり……その異名を上げていけばキリがない。そんな有名人クンにとっては、これから何が起きるか分からない『NHK』の試験すらも自分が目立つための舞台に過ぎないのかい?」


 だからそんなに自信たっぷりだったのかい──と。

 風琴は出会い頭に言ったのと同じ意味の言葉を口にした。

 それに対するくもるの答えは、


「あったりマエカルのサキエリスですよっ!」


 だった。流石我らのくもるである。


「どれほど高名な自称探偵であっても、ジブンにとってはシンデレラステージへの踏み台にすぎないんですっ! 必ずや彼らに勝ってエルメシアへの挑戦権を手にしてみせますよっ!」

「はっはっはあ、噂通りの自信家だなァ。まあいいさ、君はその勢いで運を開いていってくれよ──だが、ひとつ忠告しておこうか」

「あなたみたいなCV櫻井孝宏並みに信頼できない人から受け取る忠告なんてありませんっ!」

「まあそう言わずに受け取ってくれよ──いいか」


 一拍間を空けて、風琴は次のように言った。


「────────」

「え?」

「えぇ?」


 その内容は、くもる達を大いに驚かせるものだった。


 ★


「じゃあ俺は、他の自称探偵の顔を覗いてくることにするよ。もっとも、向こうは俺の顔なんて知らないだろうがね」


 忠告を終えた風琴は、そう言ってどこかに消えた。


「いったいあの人は何だったんでしょうかねっ。最後に意味深な忠告までしてましたし。あの意味とはいったい……」

「そうですねぇ。不思議な人ですぅ……」


 くもるのボヤきに返事するれんげ。その様子は何か物思いに耽っているようであった。


「? どうかしたんですか、れんげさん」

「いや、大したことじゃないんですよぅ──ただ、『未開探偵』のことで気になることがあってですね」


 くもるにとって風琴は気になるところしかないキャラだったが、それはさておき、れんげが気になった点とは何処なのだろうか?


「『未開探偵』は『事件を解決しない探偵』なんですよね。『事件を解決』ではなく『事件を解決』んです──それっておかしくないですか?」

「あのオジサンがかなりのオアか、よほどの怠け者だからじゃないですか? そもそも自称探偵の事件解決率はそんなに高くないって探偵省の発表で見たことがありますし、そんなに気にすることじゃないと思いますけど」

「それに、あの人は『どんな事件も迷宮入りにする』と言ってましたぁ。それはつまり、あの人が関わった事件は他の人も解決できないものになるということになりますよねぇ……」


 そんなことってできるんでしょうかぁ?

 探偵というより犯人側のような『未開探偵』の在り方に、れんげは疑問符を浮かべる。

 そう言われるとたしかに不思議だ。どれだけ単純な謎も、どれだけ簡単な事件も、『未開探偵』が関われば迷宮入りになる──ミステリーよりミステリーな存在に思えてきた。


「なんか悪い人たちが喜びそうな存在ですよねっ。どんな真相も闇に葬れるってことですしっ」


 そう言いながらも、実はそういう裏の世界に需要があるために表の世界の知名度は低いのではないかと考えるくもるであった。

 そんな考察をしても、未開探偵が何処かに消えた今、真相は分からない。まさしく未開決である。

 まあ、彼もこの試験の参加者である以上、大広間の何処かにいるのだろう。次会った時に聞いてみるのもいいかもしれない──もっとも、彼が聞かれたことを素直に答えるキャラクターとは思えないが。

 そう結論づけて、くもるは佐葉三十六子にオレジンジジュースのおかわりを頼もうとグラスを掲げ回転しながら飛んできた大振りのナイフがグラスを真っ二つにし、広間の壁に突き刺さった。


「ギエピーっ!?」


 一歩間違えれば己のキュートな顔面を貫いていた凶器の襲来に、くもるは裏声でピンク色のポケットの怪物みたいな叫び声をあげた。

 一瞬『復讐探偵』による攻撃かと身構えたが、彼が使っていたのは小型のチェーンソーであって大振りのナイフではない。つまりこれを投げてきたのは別人だろう。刃物を振り回すような危険人物が同じ場所にふたりもいるなんて認めたくないのだが。


「くっ、くもるさん大丈夫ですかぁ!?」


 心配するれんげの声を聞きながら、くもるはナイフが飛んできた方向に目を向けた。

 そこにはひとりの少女が立っていた。黒いセーラー服を身に纏った、くもると同年代くらいの少女である。

 くもると目が合うと、少女は口を開いた。


「?なだるもく星番一、えまお」

「え?」


 裏声というか、逆さまというか、ひっくり返っているというか、なんとも奇妙な喋り方だった。

 理解できずに聞き返したくもるを無視し、少女はこちらに向かって歩いてきた。


「どけいなゃじとこるえ言が私、あま。ない若分随りよたいてっ思、がたいてい聞に噂。るもく星番一──『偵探運開』」

「ちょっとちょっと、ただでさえ聞き取りづらいのにそんなに長く喋られたら更に意味がわかんないんですけどっ!」


 作者的にも一々逆さまの文章を書くのは面倒なんで、あまり喋って欲しくないのである。次の瞬間に滑って転んで死なないかな。


「ちょっと! やーちゃんストップストップ!」


 意味不明な言葉に慄くくもるに向かって近づいてくる怪物の条件満たしガールは、後ろからやってきた白いセーラー服姿の少女に肩を掴まれることで止められた──その顔は瓜二つにそっくりだった。双子だろうか。

 こちらの話し方は普通である。


「やーちゃんだとコミュニケーションが致命的に下手だから交渉に行っちゃダメって言ったじゃない!」

「……もで。んゃちーこ、んめご」

「でももだってもないんだよっ! 見てよ、第一印象からドン引きされてるじゃない!」


 やーちゃんと呼ばれた黒セーラーの少女は不満げな顔をしながら、渋々といった様子で、


「よるすにうよいなげ投をフイナはらか度今。たっかわ……」

「そもそもその喋り方の時点でコミュニケーションの難易度がベリーハードなんだよ、やーちゃん!」


 なんて、姉妹の間ではスムーズに進むコミュニケーションを終えた後、白セーラーの少女はこちらに向き直り、ぺこりと頭を下げた。


「驚かせてごめんなさい。やーちゃんも悪気があってナイフを投げたわけじゃないの。許してあげてくれない?」


 悪気なくナイフを投げてくる方が恐ろしいと思うのだが、ここで


「人をここまで怖がらせておいて許してもらえると思ってるんですかっ!? あなたを傷害未遂罪と器物損壊罪で訴えます! 覚悟の準備をしておいてくださいっ!」


 と返せるほど、くもるは肝が座っていない。もし許さなくても2本目のナイフが飛んでこないと言う保証はないのだから。

 くもるの返事を聞くと、白セーラーの少女は嬉しげな表情をした。


「そうだわ、まず最初に自己紹介をしておきましょう!」


 白セーラーの少女がそう言うと、ふたりは並んでお辞儀をし、お互いの両手と頬をくっつけて鏡合わせの対称のようなポーズを取りながら、自己紹介をした。


「『‪武装探偵ぶそうたんてい』──椿履つばきばき 暴行子ぼここ

葉衣八ばいや 履椿きばきばつ──『偵探騒物いてんたうそっぶ


 椿履──八大鬼業が表の一、殴り込みの代行業。

 そんな、暴力の世界の住民であることを示す名前を言いながら、ふたりは口を揃えて、真逆に続けた。


「よろしくね」

「ねくしろよ」


 まだまだ現れる新キャラたち!?

 おいおい本当に処理できるのか!?

 そもそもまだ試験の全貌も見えてないのに、前振りに時間をかけすぎでは!?

 このままだと試験に突入しないままエタってしまうのでは!?

 ご安心を、次回こそは試験の主催者にして度々名前が出ている文曲合理が登場だぜ! ……多分←オイ!w

 そもそも次の話は書かれるのか!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

開運探偵の敗北 女良 息子 @Son_of_Kanade

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ