第4話 開運探偵の入館
「へー、れんげさんって離島出身なんですかっ!」
「はい。
「うーん。社会の授業で聞いたことがあるような、ないような」
「日本の端にある
「で、す、よ、ねぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!! 天の道を征き、総てを知るこの一番星くもるが知らないモノなんて、逆に存在価値あるの? って感じですし!」
「ははは……」
登山を再開して十五分が経ち、足に疲労が溜まっても、くもるの天の道を征き、総てを舐め腐る態度は平常運転であった。
「それにしても、離島出身とは意外ですね。ショッキングでアバンギャルドなファッションをしてるから、てっきり都会出身なのかと思ってました」
「田舎者だとバレるのは見た目からですから、服装には気を付けているんですぅ」
言って、れんげは自分の服を見せつけるように、その場でくるりと一回転した。包帯の端や長丈のスカートがふわりと揺れる。
「えへへ、ど、どうですか? 都会ではこういうのが流行っているんですよね?」
「いや、別に流行っているというわけでは……まとめブログなみに信頼できない情報源でも使ったんですか、あなたは──金箔に包ませて言わせてもらいますと、クッッッッッッソダサいですよ」
ぜんぜん金箔に、もといオブラートに包めていない、直球の悪口だった。そんな事を言うくもるの服装も、学校指定のジャージという、決してオシャレとは言い難いものなのだが、彼はそのことを平然と棚に上げていた。
クソガキの言葉がショックだったのか、れんげは目尻に涙を浮かべている。病的なファッションに違わず、メンタルが弱いらしい。
「そ、そんなぁ~! この服を買うためにミスドのアルバイトを頑張ったのに~!」
「へぇ、離島にミスドってあるんですか」
ドーナツ大好き少年のくもるは全国チェーンのドーナツショップの名前に反応した。おじさんはくもるくんのドーナツ(意味深)を食べたいな、ふふ。
「そりゃ、ありますよぅ! ミスドだけじゃなくてセブンイレブンもありますよぅ!」
「そうなんですか。まあ、ミスドとセブンがあったところで離島がド田舎なのは変わりませんからね。日本と海を隔てた場所に住むってどんな思考回路していれば思いつくんですか? それとも何かしらの罪を犯したから、そんな僻地に住むハメになっ」これ以上くもるを喋らせると、読者の中にいるかもしれない、キャラクターの思想と作者の思想を同一視して勝手に憤慨するタイプの人間が誤解しかねないので止めておく。「ともあれ、よくもまぁそんな騙されやすいアタマで『自称探偵』を名乗れていますね。ちゃんと暗号文を解いてここまで来れたとは思えませんよっ」
こいつは自分のことを棚に上げないと死ぬ特性なのか?
「そ、そんなことないですよぅ! これでも昔は『離島の神童』と呼ばれていたくらい頭がよかったんですから! ほらっ、これを見てください」
言って、れんげは腰部分を覆う包帯の隙間に手を突っ込み、モゾモゾと弄った。どうやら、何重にも重なった包帯はポケットのような構造になっているらしい。
彼女は金色の装飾が目立つ白い封筒を取り出した。それは、くもるが持っているのと同じ、『NHK』からの招待状であった──ように思えたが、違った。
封筒の分厚さが、違う。れんげが持っている招待状は、くもるが持っているものより、僅かに分厚かった。
「……?」
中身に入っている手紙の枚数が違うのだろうか? いや、そんなわけが──感じた違和感から、封筒に訝し気な視線を向ける。
やがてれんげは封筒を開き、その中身を取り出した。
出て来たのは、くもるが貰った招待状でもなければ、それより枚数が多い手紙でもない。
「なんですかこれ。『
「トボけないでくださいよぅ。くもるさんもこれを受け取ったからここまで来れたんじゃないですか」
そう言うれんげに、ふざけている様子は見られない。
なぜ自分と彼女で封筒の中身が違うのだろうか。そんな疑問を抱きながら、くもるは手鏡の鏡面を見た。
そこにはくもるが貰った招待状にもあったように、暗号文が書かれていた。これでは顔を映して身だしなみを整えることは到底出来まい──そして、その暗号文はくもるが貰った招待状とは、全く違う内容であった。
エルメシアとの一騎打ちを望む探偵は、以下の文章が示す場所に集合せよ。
二人下りた、時間なんか、以下些細な諍い、痴漢の勝ち
「????????????????? こ、これは曲がりなりにも小説という名で世間に出している文章に出しちゃいけないタイプの駄文じゃないですかねぇ? 何を言ってるのかさっぱりわかりませんよ」←は? 殺すぞ。「うーん、万人に寄り添った考えが出来る慈悲深いジブンが無理矢理解釈すれば『痴漢を疑われた男が強制的に下ろされて、口論になったけど最終的に勝利した』っていう文章に見えなくもないですが、いささか牽強付会がすぎますね──ですが、この暗号の答えは、見る前から知っていましたよっ! ズバリ『富士山』ですねっ!」
「そりゃあ、ここに居る以上は解けているに決まってるじゃないですか──なんですかそのリアクションは。まるで、この暗号を初めて見たみたいな……」
「その通りなんですよ。ジブンはこんな暗号文を見たどころか、こんな手鏡を受け取ってすらいません」
そう言って、くもるはズボンのポッケから自分宛の招待状を取り出し、中に入っている暗号文をれんげに見せた。それを目にしたれんげは、目を見開かせて驚いた。
「どうやらジブンとれんげさんでは、受け取った招待状が違うようですね──もっとも、それが指し示す場所は同じですか──どうしてでしょう?」
「そんなこと私にもわかりませんよぅ。他の『自称探偵』が受け取った招待状も、私たちのものとは違うんでしょうか?」
結論を下すには情報が少なすぎるため、『イエス』も『うすノー』とも言えなかった。
★
その後は招待状についての考察や、れんげとくもるがそれぞれの暗号をどう解いたのかという解説を挟みながら、二人は更に数十分歩き続けた。そうしてようやく、人工的な建造物のシルエットが見えてきた。『NHK』会長の別荘である。
「はぇ~、すっごい大きい」
門の前で三階建ての洋館を見上げながら、くもるは感嘆の息を漏らした。日本の財界を牛耳る超絶大富豪の彼であってもそんなリアクションをしてしまうほどに、その館は立派なものだった。
「本当に大きいですねぇ。私の島に、こんな建物ないですよぅ」
離島出身であるれんげは、くもる以上に感動した様子であった。
門を抜けて、また暫く歩く。
館の正面玄関の前に着くと、そこにはメイド服を着た二人の女がいた。メイド達はくもるたちの姿を認めると、全く同じタイミングで頭を下げた。気品や態度を見るに、メイドとしては申し分ない二人である。どこぞの目立ちたがりな老いぼれの代わりに雇いたいぐらいだ。
「『開運探偵』一番星くもる様、『自傷探偵』綿箆れんげ様、ようこそいらっしゃいました」
「『開運探偵』一番星くもる様、『自傷探偵』綿箆れんげ様、ようこそいらっしゃいました」
二人のメイドは全く同じセリフを寸毫のズレもなく口にした。よく見てみると、彼女らの顔はコピペしたかのようにそっくりだ。双子なのだろうか。
「わたくしは『会長探偵』
「わたくしは『会長探偵』
推定双子のメイドたちは、全く同じ台詞に続けて、異なる自己紹介をした。いくら双子みたいにそっくりとは言え、名前まで同じはずがないので、当たり前だ。
──文曲? どこかで聞いたことがあるような……。
自己紹介の中にあった『会長探偵』の名前が引っかかったくもるだが、そんなことは双子メイドのインパクトを前にかき消されてしまった。
くもるとれんげは佐葉メイヅに促され、館に這入った。玄関を通った先には広いロビーが出迎えた。館の内装は外観に違わず豪奢なものであり、くもるは思わず目を惹かれてしまう。れんげに至っては、こんなリッチな家は初めて見るのか、包帯に隠されていない目を輝かせながら、あちらこちらに目を向けていた。ついさっきまでの彼女からは考えられないキャラクターである。それほどまでに、見るもののテンションを上げさせる魔力が、この館にはあるのだった。
「くもるさんくもるさん見てください! シャンデリアですよぅ! 綺麗ですね! あっ、あっちにはなんだか高級そうな壺が!」
「落ち着いてくださいれんげさんっ! いい大人が『フォロワーの胸を揉むために片道十八時間のバスに乗って東京まで行くツイッターのオタク』みたいなテンションになってどうするんですかっ! そんなに忙しなく首を動かしてたら、頭が取れますよっ」
「えっ、そっ、そうなんですか!?」
顔を青ざめさせながら両手で頭を支えるれんげ。マジなわけねーだろ。つくづく『自称探偵』に向いていない女である。
れんげが落ち着くと、佐葉たちは廊下を歩き始めた。その廊下は大広間に繋がっているらしく、館に着いた『自称探偵』はそこに集められるらしい。
廊下を歩きながら、メイドたちは口を開いた。
「まずはお祝いの言葉を送らせていただきましょう。くもる様、れんげ様──貴方様がたは、この『
「まずはお祝いの言葉を送らせていただきましょう。くもる様、れんげ様──貴方様がたは、この『
三十六番目と三十七番目──配られた招待状の全体数は知らないが、早いほうとは言い難い順位であった。エルメシアとの対決権が先着順だったら、失格を免れられない順位である。
だが──くもるは考える。あからさまに三十六番目と三十七番目の名前のメイドが用意されている事からして、先着順のセン(CV:広橋涼ではない)は薄いのではないカーン? と。
「その通りでございます、くもる様」
「その通りでございます、くもる様」
二人の女中はくもるの推理を肯定した。
「『もっとも早く到着した者が勝ち』なんてルールにしてしまえば、『最速探偵』様が勝つに決まっていますからね。それはフェアではないと、合理お嬢様は判断為されたのです」
「『もっとも早く到着した者が勝ち』なんてルールにしてしまえば、『最速探偵』様が勝つに決まっていますからね。それはフェアではないと、合理お嬢様は判断為されたのです」
「故に」
「故に」
「『第一の試練』である暗号を解いて、ここに集合された皆様には、今日から一週間ほどかけていくつかの試練を受けていただきます。その末に残られた方が、見事協会の眼鏡にかなった『自称探偵』として、『エルメシアとの対決権』を得られるのです」
「『第一の試練』である暗号を解いて、ここに集合された皆様には、今日から一週間ほどかけていくつかの試練を受けていただきます。その末に残られた方が、見事協会の眼鏡にかなった『自称探偵』として、『エルメシアとの対決権』を得られるのです」
つまり、くもるが解いた(解いてない)暗号はまだ序盤に過ぎないわけだ。
「一週間ほどって……そんなチンタラチンタラの芽されると困るんですけどっ! ジブンは明日も学校があるので」
「だったらお帰りになられますか?」
「だったらお帰りになられますか?」
「いや、そういうことじゃ……」
承認欲求がクソガキの形をしているくもるが学業を理由に帰る確率は、この世にメスドラ体形の女がいる確率よりも低かった。つまりゼロパーセントである。
「あっ、そうだ。いいことを思いつきました。集合した自称探偵たちでくじ引きをして、アタリを引いた人が対決権を貰えるってルールはどうです? それだと一時間足らずで終わりますっ」
「それだと『開運探偵』のくもる様が勝つに決まっているではありませんか」
「それだと『開運探偵』のくもる様が勝つに決まっているではありませんか」
「うぐっ」
無論それを狙っての提案であったが、あっさりと切り捨てられぐうの音も出ない。卑しい、卑しいぞくもる少年。
「あのー」
そこで、れんげがようやく頭から離した手を挙げた。
「一つ質問があるんですけど、いいですかぁ?」
「わたくしたちに答えられる範囲のものでしたら大丈夫ですよ」
「わたくしたちに答えられる範囲のものでしたら大丈夫ですよ」
『答えられる範囲』という言い方が引っかかるが、それはおそらく『これから開催される試練はどういうものなのか』みたいな質問には答えられないという意味なのだろう。
「『第一の試練』で私とくもるさんが貰った招待状には手紙と手鏡という違いがありました。どうしてですぅ? もしかして、他の自称探偵の人たちが貰った招待状も、私たちが貰ったものとは違ってたりするんですか?」
「ああ、そのことですか」
「ああ、そのことですか」
そう言って、彼女たちは微笑を浮かべながら、淡々と続けた。
「それはわたくしたちが答えるようなものではありませんね」
「それはわたくしたちが答えるようなものではありませんね」
「いずれ分かることかと」
「いずれ分かることかと」
「いえ」
「いえ」
「いずれ、分からされることかと──そう期待しております」
「いずれ、分からされることかと──そう期待しております」
佐葉姉妹の意味深な言葉に疑問符を浮かばせるれんげとくもる。
と、丁度そこで、佐葉姉妹は足を止めた。彼女らの前には両開きの大きな扉が立っている。大広間に続くものだろう。
「さて、大広間に着きました」
「さて、大広間に着きました」
メイドたちはそれぞれが扉の取っ手を掴み、ゆっくりと開いた。
だんだんと、大広間の中が明らかになっていく──何十人もいる老若男女。煌びやかな灯り。くもるでも到底理解できそうもない知的な会話。
その中でも特にくもるとれんげを強烈に迎えたのは。
「ウエエエエエエエエエエエエエ!!!! ウヴ!!! ボオオアアアアアアア!!!!! ア!!! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
という、絶叫だった。
くもるたちは、その絶叫──声に、聞き覚えがあった。
それは──紅有朱野の叫びだった。
「絶叫!? あっちか!」
叫び声がしたのは大広間の中央からだった。
目を向けると──そこには、両手で顔を覆った有朱野がいた。
そして。
彼の足元には、切り離された顔面の皮が落ちていた──。
到着早々まさかのハプニング!?
うすのくん、怒らないでね(笑)←もっと謝るべき相手がいるんだよなぁ(汗)
謎が渦巻く館にて、くもるを待ち受ける試練とは!?
あとがき漫才やキャラ紹介は書かれないのか!?
そして、この小説の続きは書かれるのだろうか!?
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