伊邪那美命2

 伊邪那美命イザナミノミコトの目の前に、五つの黒い闇が浮かんでいた。闇の中はどこにつながっているのかは、何も見えないからわからない。だが、そこから絞り出すように、三体の大鬼と二体の天狗が産み落とされていた。


 軽やかに羽ばたく天狗と、地響きを立てて降り立つ大鬼。


 いずれも、これまでに出会った者達よりも大きな体つきをしている。だが、のんびりと観察している暇はない。次の瞬間には、空を飛ぶ天狗たちは術準備を始め、三体の大鬼は巨大な金棒を振り上げながら一目散に迫ってきた。


 その間を、黒い風が駆け抜ける。


 一気に伊邪那美命イザナミノミコトの前まで来て飛び上がり、青白い光を放つ刃をその体に叩きつける。


 何かしようとしていた伊邪那美命イザナミノミコト


 だが、その行動は起こらない。自らの体が痺れたことが不思議だったのだろう。その感触を確かめるように自分の体を探っていた。


「やるな、アイツ。伊邪那美命イザナミノミコトはその雰囲気だけで人を痺れさせるんじゃなかったのかよ」

「案外、伝承の類は大げさなのかもしれませんね」


 優一ゆういちが大鬼と天狗の注意を惹きつけながら、余裕とも思える話を正吾しょうごに振る。その正吾しょうごも、麻痺した伊邪那美命イザナミノミコトの注意を引き付けることに成功していた。


「さっすが、私の無二むに様だよね。これで、私の呪法も効きやすくなるんだよ」

「何言うゆうてんの? アイツはアカン言ったゆうたやろ?」


 市津いちづの呪いと和葉かずはの術結界が発動する。それと同時に、二人はそう話していた。


 市津いちづが放つ死の呪い。それは大鬼と天狗の生命力を徐々に減らしていくものだった。だが、伊邪那美命イザナミノミコトには効果がない。それでも、お供の大鬼と天狗は苦悶の表情を見せていた。


 だが、それでは天狗の術は止まらなかった。だからだろう。何かを感じた市津いちづは、いきなり全体完全回復の詠唱準備を始めていた。


 大鬼たちの眼が、全て市津いちづを捉えていく。


「詠唱破棄。市津いちづさんには、麻痺抵抗の後に」

 清楓きよかの声が届いたのか、市津いちづは準備をしながら頷いている。


「継続回復はできています。皆さん、術に備えてください」

 白菊しらぎくの声に、全員が無言で頷いている。だが、それを力強い言葉が後押しする。


「大丈夫や、ウチの術結界を信用してや!」


 その瞬間、二つの術が同時に清楓きよか達に襲い掛かっていた。

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