宣言

 焦る優一ゆういちがその声を聞いたのは、土煙が、違う煙に包まれはじめた時だった。


清楓きよか、皆をつれてその坂を駆け昇れ。まず、俺に従う事を宣言するんだ。出来るだけ大きな声で。何でもいい。『俺の言う事を聞く』とか言えばいいだろう。おそらくそうすれば、そこの結界を越えられる。その坂を上れば伊邪那美命イザナミノミコトがいる。大雷神おほいかづちのかみを倒した豪雷ごうらい達もだ。急げ、ここは迷っている暇はない」

「え!? どういうこと?」


 煙の中、無二むにの声が急を告げる。その事態をうまく処理できなかったのだろう。清楓きよかは一瞬動けずにいた。だが、隣の清恵きよえに背中を押され、そこにいる人たち全員に聞こえるように叫んでいた。


「みんな聞いて! ここは無二むにの言葉に従います! 豪雷ごうらいさん達も話を聞いてください。今、ここに新たな鬼が来ています。ですが、今の状態では十分戦えない。だから、いったん引きます。その坂を上ってください。伊邪那美命イザナミノミコトのいる場所に!」

 その宣言は轟くように駆け巡り、そこにいる全員に知れ渡る。


「さっ、清楓きよか白菊しらぎく、いきますよ。優一ゆういちさんも急いで」

 清恵きよえの声に、呼ばれた者達が走り出す。ちらりと振り返った清楓きよかが見たのは、煙幕の中に光る、青白い光の帯だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る