大雷神3

 豪雷ごうらいの結界がわれた瞬間、周囲に光が広がっていた。それは大雷神おほいかづちのかみの戦闘空間を飛び出して、周囲に大きく広がっていた。


 その光の広がりが止んだ頃、豪雷ごうらいの体が逆に光を集め始め、徐々にその光が薙刀に移動する。


 その光が最大に高まった瞬間、豪雷ごうらいの雄叫びが轟いた。


 大雷神おほいかづちのかみの打ち下ろした巨大な直刀の背を走り、そのまま一気に大雷神おほいかづちのかみの腕へと至る。


 そのまま豪雷ごうらいは飛翔し、大上段から一気に青龍偃月刀を振り下ろす。己の力の全てを、その一撃に込めるように叫びながら。


「豪雷天魔滅砕斬」


 その瞬間、大雷神おほいかづちのかみの頭の先から光が地面に一直線に突き抜けていた。


 一瞬何が起きたが分からない様子を見せた大雷神おほいかづちのかみ。だが、次の瞬間。己の視界がずれて行くのを感じたのだろう。その顔に笑顔を作ってみせていた。


「見事……」

 大雷神おほいかづちのかみが告げたその一言で、それまであった光の壁がはじけるように取り払われる。


 それは一種の爆発に似たものだった。


 その瞬間、それまで蓄えられていたその戦場の余波が、一気に周囲に広がっている。それと共に、土煙があたりの景色を覆い隠す。


 濛々とした土煙が広がる中、一気に東雲しののめの元に駆けよる正吾しょうご


 その瞬間、誰もがおそらく油断していた。それは無二むにも例外ではない。


 その接近に気付かなかったのだから……。



 それは一瞬の出来事だった。背後から黒い山がせり上がる。そこから声が聞こえた瞬間、断末魔の叫びも許されず、二人の男が姿を消す。


「ほう、大雷神おほいかづちのかみともあろうものが情けない。常命の者に倒されるとは」


 その声が聞こえた瞬間、晴れつつある土煙から巨大な金棒が大地に突き刺さっていた。その途中にあった二人の男と共に。


無災むさい! 九頭竜くずりゅう!」

 優一ゆういちの声がそこにいる全員に急を告げる。だが、その場で戦闘に参加できる人間は限られていた。


「クソ! こっちだ! 鬼ども!」

「気を付けてください。あれは、吉備冠者きびのかじゃです」


 優一ゆういちがその鬼を引き付けるのと、清恵きよえの警告が飛ぶのはほぼ同時の事だった。


 土煙の中から現れたのは、三体の大鬼と四体の魔犬。三体の大鬼の全てが、その手に巨大な金棒をもっている。


「ふははは。知っておるぞ、こやつらの中には蘇生を試みる奴がおる。兄者、そいつからやってしまおう」

「ぐははは。それは良い考えだ、弟よ、妹よ。だが、この金棒で命を奪えば、常命の者は蘇生できぬ」

「ぬははは。それは兄者の物だけだ。ならば、ワシが潰したこ奴にも一撃を叩きこんでおけばよい」

「そうじゃな、そうじゃな。それがよい。それがよいぞ、兄者たち」


 吉備冠者きびのかじゃが叩き殺したのは無災むさいだった。そして、次は九頭竜くずりゅうの亡骸を更に叩き潰していた。残忍な光がさらに上がった土煙と共にあたりを覆う。


 その中で、鬼はとても楽しそうに笑っていた。


「こっちだって言ってんだろ!」

 優一ゆういちの叫びに似た挑発が、その鬼たちに向けられる。だが、その三体の鬼は、一行に優一ゆういちを見ようとしなかった。焦りの中で生まれた恐怖が、優一ゆういちの技の成功率を下げているのだろう。


 この事は、全員が鬼に狙われることを物語る。この急遽できた戦いの場は、誰もが鬼の標的という同じ線の上に立っている。光の壁の前に立っていた、横一列に並んだ状態で。



「どれ、そろそろ行こうか、弟よ、妹よ。なんじゃ、この光の帯は? おい、弟よ、犬どもはどこに行った?」

「兄者、それがどうもいないようじゃ。何か知っておるか? 妹よ」


 だが、その答えは帰ってこず、ただ周囲にうめき声が上がっているだけだった。

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