大雷神2

 更に突進する正吾しょうご。だが、その光の壁はびくともしない。


無二むに殿、結界破りをお願いいたす!」

 何度も何度も光の壁を叩きながら、正吾しょうごはその姿から目を離さずにそう告げる。


「そうだ、白菊しらぎくお嬢様、単体回復をお願いします」

 壁を打ちつける手を止めて、正吾しょうごの必死な眼が白菊しらぎくを見る。だが、それはもう試したのだろう。白菊しらぎくの疲れたような顔がそれを物語っていた。


無災むさい殿でもよい。お願いいたす!」

光の壁から一番離れてみている無災むさいにさえ、正吾しょうごはその頼みを告げていた。

九頭竜くずりゅう殿、何かこれを割る術は!? 何かあるのではないのか!?」

その横にいる九頭竜くずりゅうにも、その目を向ける正吾しょうご


 だが、その全てに答えが得られない正吾しょうご。だから彼の混乱は一層激しさを増していた。

ついにその矛先は動こうとしない無二むにに向けられていた。


その襟を締め上げ、少年を吊り上げる正吾しょうご。普段おとなしい男が、これほど取り乱すのは珍しい。そして、それを黙って受け入れる無二むにもまた、静かな紺碧の瞳で正吾しょうごを見つめていた。


「だれか……、拙者を中に入れてくだされ……。東雲しののめ殿に治癒をかけてくだされ……」

 力なく沈む正吾しょうごの体。それと共に、無二むにもその呪縛から解放される。


「ダメなんだ。大雷神おほいかづちのかみは七人しか戦いの場に入ることを許さない。俺はここでその一部始終を見る事しかできない……」

 ただ一度、その光の壁を叩く無二むに。ほんの一時明滅するも、その壁はまた強固な輝きを放っている。


「大丈夫です、正吾しょうごさん。あの薬師くすしさん。確か市津いちづさんでした。彼女はあの年でとても優秀な薬師くすしさんです。おそらく、白菊しらぎく以上の実力を持ってます」

 そう告げる清恵きよえの言葉に、無表情ながらも明らかに気落ちする白菊しらぎく。ただ、その隣でその肩を掴むものがいた。


「大丈夫だよ、アタシたちはまだ成長途中。白菊しらぎくもアタシも、まだこんなもんじゃ終わらない」

 それは、今何もできない自分自身に告げている言葉でもあるのだろう。それを感じた白菊しらぎくは、いつもの様子に立ち戻る。


「ええ、色んな意味で、私達はこれからです」

 お互いに顔を見合すその時に、東雲しののめの体が回復の光に包まれる。


 だが、その傷は思った以上に深手なのだろう。まだ起き上がらない東雲しののめに、正吾しょうごが必死に壁を叩いて名を呼んでいた。


 その時、光の壁を鉄槌が叩くと同時に、耳を抑えたくなるような大音声が聞こえていた。


「破戒僧豪雷ごうらい! オマエの首はオレがとるんだ! こんな所でくたばんじゃねぇ!」

 通常、戦いに場に張られる結界は、その外の音を通さない。内側は外の様子も分からない。だから、その声も当然光の壁に阻まれるはずだった。


 だが何故か、豪雷ごうらい優一ゆういちの方を一瞬だけ見て笑っていた。


 そして、神主が大雷神おほいかづちのかみの巨大な直刀でその身を地中深くうずめられた瞬間、その前にいた豪雷ごうらいの結界も微塵にはじけ飛んでいた。

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