大雷神1

 清楓きよか達がそこについた時、そこには光の壁に覆われた空間が出来ていた。その一番奥には毘沙門天を思わせる武神の姿が見えている。


「あの御方が大雷神おほいかづちのかみ様です」

 遠目にもよく見えるその姿を、清恵きよえはそう告げていた。だが、甲冑をつけた武神を思わせる姿をしても、雷神としての力を見せつけていた。


 何かを唱えたその瞬間、雷の雨が降り注ぐ。


 だが、それは豪雷ごうらい達の頭上に張られた術結界が多くを阻む。少し影響を受けた傷は、薬師くすしの回復で瞬時に治癒していた。忍術と薬師くすしの連携が、非常にうまくいっている。


 ただ、その手に持つ巨大な直刀からの攻撃は別だった。それを受け止める豪雷ごうらいが膝をつく。彼の周りに張られている結界が耐えきれないと悲鳴を上げる。


 だが、豪雷ごうらいはそれを見事に弾いていた。


 火雷神ほのいかづちのかみをも凌ぐ高さから繰り出されるその一撃は、本来人が耐えられるものではないだろう。だが、十二神将の豪雷ごうらいは、それを見事に耐えていた。


 だが、さっきとは違う剣の攻撃を受けているのだろう。


 地面には、まっすぐに伸びた傷跡がいくつもある。巨大な何かで抉り取られたような大地の傷跡。

 それは全て大雷神おほいかづちのかみの足元から伸びていた。


 そして、その大雷神おほいかづちのかみの足元には、お供の者と思われる六つの躯が転がっている。


 様々な戦いの傷跡。それまでの八雷神やくさのいかづちのかみと比べて多いお供の数。


 それだけでも、この戦いがいかに過激だったかを物語る。


 そして、それは豪雷ごうらい達を見ても明らかだった。


 すでに、女陰陽師と鋳物師いものしの二人が倒れている。満身創痍の豪雷ごうらいが、その身を犠牲にして大雷神おほいかづちのかみの攻撃を防いでいた。


 忍術と剣術が合わさり大雷神おほいかづちのかみの体に突き刺さる。だが、それは大雷神おほいかづちのかみにとってはそれほど問題になる傷ではない。ただ、神主が射る破魔の矢だけは、さすがに苦痛の表情を浮かべていた。


「助けないと! 無二むに! 何見てるの!」

 おそらくそれは反射的に出た言葉なのだろう。駆け寄る清楓きよかの視界にその姿が見えた途端、彼女はそう叫んでいた。


 光の壁の手前に、黒い影がある。


 他の者にとってはその認識でしかなかっただろう。後ろ姿である上に、光の壁の端に立っているのだから、その姿を無二むにと断定することはできないだろう。


 だが、清楓きよかはそう叫んでいた。そして、その影もゆっくりと振り返る。


 そして清楓きよかは息をのむ。その紺碧の眼がたたえる色を目にしたために。


 次々と集まってくる仲間たちを見る無二むにの顔は、ほんの少しだけ微笑んでいた。


 その時、光の壁の向こう側から、乙女の悲鳴が聞こえてきた。


東雲しののめ殿!」

 まさに全力で光の壁に突き進む正吾しょうご。だが彼の体は不可視の力で阻まれる。しかも自らの力のため、弾かれ、倒れていた。


 それでも立ち上がった正吾しょうごが見たもの。

 それは、地面に伏し、大量の血を流す女武芸者の姿だった。

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