幕間

朋読の巫女

 一旦地上に帰還して、清華すみかを父親に預けた清楓きよかは、すぐに出立しようとしたが、それぞれの装備をもう一度整えたいという全員の意見を一旦は退け強行しようとしていた。だが、結局はその提案を受け入れる。父親である松島清春まつしまきよはるが『清華すみかから情報をもらった方が良い』という話しのあとで。


 でも、ただじっと待ってはいられなかったのだろう。自らはみそぎを行うため、朋読神社の裏手に向かっていた。

そこには小さな滝があり、流れ込む水が蓮池を流れて川となる。そうした清浄な空気は、清楓きよかの心と体を清めていく。ただ、その心の奥底に燻る炎は、そうたやすくは消せなかった。

悶々とした気持ちのまま、禊を終えて部屋に戻る清楓きよか。その清楓きよかを待っていたのだろう。交差する廊下で、自分の部屋に戻る道をふさぐように、年老いた巫女が呼び止めていた。


清楓きよか様、清華すみか様がお目覚めになりました。お越しください」

 小さく頷く清楓きよか。そのままの姿で、老巫女の後をついていく。そこにある答えを求めて。



***



 清楓きよかが部屋についた時、そこにはすでに父親である松島清春まつしまきよはるが座っていた。母親である松島春菜まつしまはるなは元々看病していたが、父親が自分よりも先にいたことに、清楓きよかは小さな違和感を持っていた。


「私も今来たばかりだ。焦るな。無二むになら、きっと大丈夫だ」

 おそらくその事が顔に出たに違いない。松島清春まつしまきよはるの言葉を受け、清楓きよかは自分を思い知る。何事にも、疑心暗鬼になってしまっていることを。


「申し訳ございません」

 目を瞑り、小さく柏手を打つ清楓きよか。その後には、覚悟を決めた顔つきに変わっていた。そのまま父親の隣に座り、その話を聞くために真剣な目を向けていた。


「では、聞こうか、清華すみか。全て話してよい。もう清楓きよかは、朋読神社の一人前の巫女としてここにいる」

 松島清春まつしまきよはるの言葉を受け、清華すみかはしばらく清楓きよかの顔を見つめる。

 だが、何か感じる事があったのだろう。まだ床に伏せったままだが、その顔に咲いた笑顔の花は、とても清らかなものだった。


「いい顔になったね、清楓きよか……。あの方が言った通りね……」

 そうして清華すみかは話しはじめる。その身に起こった全てと、彼女たちの姉である清恵きよえのとった行動のすべてを……。

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