析雷神4

 いくつもの攻撃、いくつもの危機。それらを繰り返していく中で、清楓きよか達は確実に析雷神さくいかづちのかみの体力と、その取り巻きの者達を倒していた。

 すでに、残るは析雷神さくいかづちのかみ本人と優一ゆういちが相手にしていた大鬼を残すのみとなっている。


「油断召されるな、優一ゆういち殿」

「ああ、わかってるよ! だが、ほんとに助かるぜ!」


 さすがに析雷神さくいかづちのかみと大鬼の体力は大きく、無二むに九頭竜くずりゅうの攻撃でも簡単には倒れなかった。だが、それも終わりに近づいていく。あれほどしぶとかった大鬼が、無二むにの一太刀を受けて、ついにその身を地に伏せていた。


「さあ、あとはお前だけだぜ、析雷神さくいかづちのかみさんよ!」

 優一ゆういちがそう告げた瞬間、析雷神さくいかづちのかみの冷酷な刃がうねりをあげて迫ってきた。


「大車輪・旋風斬」

 自らの体を回転させ、高速の刃を優一ゆういちめがけて叩きこんでくる。無二むにに切り落とされ、すでに腕は二本になっているとはいえ、その力は絶大だった。


 うねりをあげて迫る刃。その一本一本でも破壊力は尋常ではなかったが、それが次々と襲ってくるその技は、まさに旋風のごとく鉄槌で防ぐ優一ゆういちの体力を削っていた。


「愚かなり、人間共。力を削いでいるとはいえ、麿は八雷神やくさのいかづちのかみの一柱ぞ。いかに鬼どもをたおせたとしても、麿には届かぬものと知れ」

 瀕死の優一ゆういちを助けるために、白菊しらぎく無災むさいの詠唱が響く。


 その中で、ついにあの男が奇声をあげていた。


「笑止! カラカラと騒がしいわ、ガラクタめ! 九頭竜くずりゅうの名にかけて、神であろうが、仏であろうが、その一切を滅ぼしてやろう!」

 大言壮語を放つ九頭竜くずりゅう。だが、全ての準備を整えた後だったのだろう。

 九頭竜くずりゅうの背には、すでに陰陽大極図が浮かび上がっている。しかも、析雷神さくいかづちのかみの足元には、あの八卦陣が描かれていた。


九頭竜くずりゅう大極破・極み」

 もともと、その準備はかなり前から始めていた。それは、ちょうど大鬼の動きが鈍くなった時。珍しく、無二むに九頭竜くずりゅうの方を見ていた。その視線に気づいたのだろう。鷹揚に頷いた後、九頭竜くずりゅうはその準備に取り掛かる。

 幾度となく力をためていく九頭竜くずりゅう。陰陽師の術を最大限に発揮する技とも言える集気は、その術の効果を何倍にも高めていく。


 かつてないほどの集中でそれをする九頭竜くずりゅうの顔は、徐々に絶頂の笑みへと変わっていく。


 だが、それが決まると同時に析雷神さくいかづちのかみも行動していた。おそらく、自身の周りに気遣う必要が無くなったことも大きいのだろう。


「大車輪・旋風連撃」

 術を受けつつも、析雷神さくいかづちのかみは体を回転させてその技を発動する。己が傷つくことを顧みず放つ攻撃は、そこにいる者たちに多大な被害を与えていた。


「人の身で、麿を倒すことなど不可能。だが、これほどの傷を受けたのも久しぶりよ」

 冷酷な笑みを浮かべながら、析雷神さくいかづちのかみはそのまま攻撃を一時中断していた。何かを待っているような姿からは、依然その脅威を放っている。おそらく次の攻撃をする為に、自身の力をためているのだろう。


 効果の大きい術や技は、その分内なる力気合を消耗する。だが、ここにきてその違いが明らかになってきた。誰も動かない状況の中で、詠唱の声が響いていく。


 清楓きよかの祝詞で内なる力気合が回復する力が大きいもの達とそうではない析雷神さくいかづちのかみ。連続して大きい力をつかった析雷神さくいかづちのかみは、次の行動が出来ずにいた。


「それが、お前の敗因だ」

 残る二本の腕を切り落とした無二むにが、去り際に析雷神さくいかづちのかみに対して痺れの刃を入れていく。麻痺状態になった析雷神さくいかづちのかみの目に飛び込んできたのは、九頭竜くずりゅうの満足そうな笑みだった。


「見せてやろう、これが九頭竜くずりゅう家に伝わる陰陽師の極意の術。奥義、九曜曼荼羅陣くようまんだらじん

 九頭竜くずりゅうが目の前に描く五芒星。その輝きから導かれた九つの星が、取り囲むように析雷神さくいかづちのかみの頭上に現れる。その一つ一つの星々が、己の持つ力を輝きに変えていく。しかもそのまま、析雷神さくいかづちのかみの頭上でまわり始めていた。


 まばゆい光の帯と変わった九つの星。だが、別々のその色は交じり合い、やがて白い光に変化する。


 その瞬間、収束した九つの星の光が、一気に析雷神さくいかづちのかみを包み込む。


 それはまさに白いいかずち


 何者もそこに存在することを許さぬように轟いて、赤茶けた大地を揺るがしていた。


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