青龍の洞窟3

 再び少年を見つめる清楓きよか。その視線に気づいた少年は、その紺碧の瞳を清楓きよかに向けていた。


 だが、次の瞬間。清楓きよかは、また別の顔になっていた。小さく頷くその顔は、何かを決意したかのように引き締まる。


「どうかしたか? お嬢?」

 その変化が気になったのだろう。優一ゆういち清楓きよかの顔を覗き見る。それを合図に、それまでそこに描かれた地図を見ていた者たちも、一斉に清楓きよかの方に顔を向けていた。


「何でもないわ。考え事してただけ」

 意図しない注目に、清楓きよかは少し慌てていた。だが、何事もなかったかのように、清楓きよかは居ずまいを正して目を瞑る。


 だが、もう一度目を開けた清楓きよかは、再び決意の顔を見せていた。


 続けて、清楓きよかは隣の白菊しらぎくを見る。そこには当たり前のように白菊しらぎくの顔が待っていた。


 頷きあった二人はお互いを暗黙に理解したに違いない。それを自らの自信としたのだろう。清楓きよかの顔が堂々としたものになっていた。


「青龍は、一番奥にいて、その前が竜人という訳ね。その前には魚人と言った感じよね。数は全部で五体。なんだか思ったより、数が少ないのよね……。普通の守護者って六、七体くらい待ち受けているって聞いてたけど……。まあ、それはこの場所の狭さが関係しているのかもね。青龍達は狭い場所で、青龍が一番奥。それに対してアタシたちが陣取るこの場所は、結構広い。これってやっぱり、『術が連続できます』って言ってるようなものね。白菊しらぎくはどう考える?」


 無二むにが描いた瓢箪ひょうたん状――それほど大きなくびれはない――の地形。その小さい部分に一番大きな石が置かれている。その斜め前方に比較的大きな石を左右に分かれて二つ置き、その斜め前方に小さな石を二つ並べて置いていた。その配置は、ちょうど菱形ひしがたの形。その並べた二つの石は、くびれの部分のやや手前に置いてある。まるで、その小さい場所の扉のように。


「そうですね。竜人というのは術に秀でていると聞きますが、魚人はおそらく術を使わないでしょう。いわゆる盾の役割ですね。この地形です。くびれた部分を守れば、この開けた場所に向けて術を打ち放題ですね。無二むにさんの話にあったように、その格好や装備から容易に想像できます。青龍は水を守護していますので、その場にいる者たちも同じでしょう。水に対する守りを強化した上で、この魚人を突破する。そして、出来るだけ接近戦に持ち込むべきです。そうすれば青龍も、むやみに術を発動しないはず。正吾しょうご兄様も、今回は攻めに回ってください。無二むにさんと正吾しょうご兄様で竜人を相手にしつつ、青龍を牽制してください。優一ゆういちさんは、魚人達の足止めをお願いします」


 清楓きよかの言葉に、白菊しらぎくが自らの見解を披露する。二人は無二むにが見てきたことを信じた上で、その作戦を立てている。


 黙って頷く正吾しょうご優一ゆういち。やや遅れて、無二むにが『わかった』と小さく告げていた。だが、あとの二人は何も言わずに黙っている。


 その沈黙は、皆の同意と感じたのだろう。清楓きよか白菊しらぎくに先を促す。


「そして、無災むさいさんは、優一ゆういちさんの援護をお願いします。もちろん、私一人では回復が間に合わない可能性もありますので、その時はよろしくお願いします。九頭竜くずりゅうさんは術軽減のあと、支援術を中心にお願いします。この戦いは、無二むにさんと正吾しょうご兄様の二人を攻撃の要とします」

 白菊しらぎくの説明に、満足そうに頷く清楓きよか。その顔は、自分と同じ考えだという安心感に満ちていた。


 だが、その作戦に異を唱える者が立ち上がる。


 それを予期していたかのように、強面こわもての顔が小さな笑みを浮かべていた。

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