青龍の洞窟2

 立ち尽くし、じっと見つめるその姿に、誰もがその続きがあると思っていた。だが、皆の期待に応えることもなく、彼の周囲には沈黙が集まり始めている。


「どうしたの? 気になることがあるなら、はっきり言ってちょうだい」

 その態度が気にくわなかったのだろう。清楓きよかが苛立ちを抑えた口調で尋ねていた。


 だが、無二むには『なんだか変な感じがする』とだけ答えただけで、じっと何か考え込んでいる。


 それまでと違い、要領を得ないその言葉。しかも、その態度は、清楓きよかの苛立ちをますます大きくさせていく。ただ、その矛先は無二むにではなく、同じく偵察に行った無災むさいへと向けられていた。


 その視線の意味を理解したのだろう。苦笑いを浮かべて答える無災むさい。その様子を、白菊しらぎくはじっと見つめていた。


「拙僧は足音や気配を消すことが出来ぬのでな、青龍の近くまでは行っておらぬ。ゆえに、拙僧が言えることは限られる。『この辺りに大岩があり、ここから姿を消すとその大岩で合流するのが良い』という事だけだ。しかも、たどり着くこの広場は大きく開けておる。岩肌も、ここらと同じもので光があるので周囲が見える。だが、少年の言う小部屋は本当に洞窟のようなものだ。地上であれば、切り立った崖をくり抜いたようなものと考えてもよかろう。無論、拙僧は夜目もきかぬ」

 広場の入り口と小部屋の入り口を指し示す無災むさい。ただ、それだけ告げた後、無災むさいは何故か一呼吸おいていた。


 その言葉の合間を、すかさず埋める白菊しらぎく。無表情であるにもかかわらず、残念そうな気配を隠そうとしない。その姿に、清楓きよかが小さく笑みを浮かべていた。


「本当に、それだけですか? それなのに何故わざわざついて行ったのですか?」

 それは暗に役立たずであると言っているようなもの。だが、それを理解したかのように、無災むさい白菊しらぎくに笑って見せていた。


 まるでその言葉を待っていたかのように。


「これは、これは手厳しい。拙僧も、本当に何しに行ったのかわからぬ。面目ないとはこの事よ。許されよ。拙僧も何か役に立てればと思ったのでな。ただ、拙僧の言葉も少しは役に立ちますぞ。『小部屋の中の様子は拙僧には見えなかった』ということが大事ですぞ。つまり、そこだけは壁に光がない。無論、その竜人とやらを、拙僧は見ておらぬよ。むろん、青龍の姿もな。だから、ここにいる皆がそこについた時にまず目にするのはその暗闇よ。少年の言う事が真実かどうか。信じるに値するかどうか。それは御仏のみがご存じだろう。拙僧に言えるのはそれだけだ」


 その言い方に、清楓きよかの端正な顔が少し変化を見せる。それはさっきまでの苛立ちではなく、冷静に何かを考えている顔だった。

 

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