迷いの中で
なだらかな起伏のある草原を、六人の男女が歩いている。その後ろを、やや遅れて一人の優男がついてきていた。街道からかなり外れた草原は、運が悪ければ魔獣に出会うこともあるだろう。だから、そんな場所を好き好んで一人で歩く者がいるはずはない。しかし、彼は集団とは交らずに、悠々自適な姿を見せていた。
「まだ、ついてきますよ? 『くず』が『つく』になったみたいです」
「さっきのやり取りの繰り返しよ。『ついて来るな』って言ったって、『僕がついて行くだって? 君たちこそ何故僕の前を歩いているんだ?』って言うのよね。まったく素直じゃないわね。謝るなら、許してあげることも考えてもいいのに……」
そう言いつつ、
思わぬ横やりが、前を歩く背中からやってきたために。
「ほほう、ならお嬢は許すんだな? まあ、陰陽師の
前を歩く
憤りつつも、その言葉には全く反論できないようだった。
「追い出したクズが何故かついてくる。これは私たちと行動を共にしないといけない理由があると見ていいでしょう。ただ、私達が目的を達成するには、その追い出したクズに頼らざるを得ない。これはどちらかが折れるしかありませんが、クズもクズなりに
それはさっき言いかけた言葉なのだろう。
まるで、他人事のような話し方に、
「なら、
「嫌です。この徒党の党首は
無表情はそのままで、鼻息荒く
「アタシも嫌いよ。でも、しょうがないじゃない。これまで何度も僧院と天文院に頼んでダメだったの知ってるでしょ? アタシが朋読神社の巫女だから『応じてくれない』っていうのは知ってるわ。でも、そんな事言ってる場合じゃないの、僧院も、天文院もわかってるくせに……。なんでわかってくれる人が助けてくれないで、何も知らない人が助けてくれるのかしら……。世の中おかしいわ」
「なるほど、
その時、一瞬だが
その言葉の意味をうまく理解できなかったに違いない。でも、それはいつまでも続かない。急に理解が追い付いた
「はぁ!? ほだされる? 愛の告白?
「ほだされるとは、心が束縛されるという意味です。神以外にそれを許すなんて、巫女として失格ですね。そして、誰も愛の告白とは言ってません。告白です。ただの、告白です。何の告白かまで、私は言ってませんよ? でも、する必要のなかった『武神降臨』に失敗した後に、
無表情でも、鼻息荒くまくし立てる
「ねえ、
お互いに、心のどこかにそれが居座っていたのだろう。小さく呟いた
「そんな事、
「アタシが?」
「『記憶を失ってもアナタはアナタ。ここにいるアナタは、唯一無二の存在だわ』というのは
堂々とそう告げる
だが、次の瞬間。
だからだろう、目の前にあった大きな背中が、いつになく近くなっていた事に気づくのが遅れていた。
そして、気が付いた時に、
「ちょっと、危ないじゃない
金属の鎧に頭をぶつけ、
その背を避けて、二人は前に進み出る。
「ねえ、あれって……」
「はい、燃えていますね。いえ、燃えていたというのが正しいでしょうか」
丘の上にいる
荒くれ共が逃げ込む先という砦は、今はただの焼けた跡となっていた。
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