どこか遠くの戦い2

 一瞬、そこに空白の時間が生まれる。だが、それは瞬く間に埋め尽くされていた。


「何なの!? 何!?」

 その行動は、虚無僧こむそうにとっては驚きだったに違いない。その口調には『信じられない』という感情があふれ出してきている。


 だが、それをなだめる声が後に続く。隣にいた軽装の男が、虚無僧こむそうの肩に軽く手をのせていた。


「彼の事です。何か考えがあるのでしょう。そして、我々の力を知っているから、任せてくれたのだと思いますよ。ここは全体回復重ねです。大丈夫。今の体力なら耐えれます」

「――わかったわ、あと三体だしね……。でも、なんなのよ。勝手過ぎない?」

 二人は頷くと、共に回復呪文の詠唱に入る。それぞれ異なる詠唱だが、心なしか互いに調和するように奏でられていた。


「では、専門外で申し訳ありません。気休めの術結界を張っておきますね」

 その会話を聞いていたのだろう。会話に割って入ってきた陰陽装束の女が、気合の声をあげて札を四方に放っていた。


 それと共に、不可視の幕が一行をすっぽりと包みこむ。


 その瞬間、詠唱を止められなかった天狗の術が完成する。その勝ち誇ったような顔と共に、紅の輝点が一行のど真ん中に現れていた。


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