青龍との戦い1

 誰かに肩をつかまれた感触がした途端、優一ゆういちは素早く行動を開始していた。


 大岩で集合と呼びかけたのは他でもない優一ゆういち。だが、その彼は大岩を眺めるように洞窟の壁を背にしていた。


 だが、無二むには正確に彼の居所を見つけ、そのまま行動を開始している。彼の目の前を走る無二むに隠形おんぎょうは攻撃行動をとると消え去る。だから、その意志をもって走り出している今。青龍たちは無二むにの姿だけを捉えている。それを理解していない優一ゆういちではなかった。


「来やがれ! この水蛇ども!」

 勢いよく飛び出すと、そのままくびれ部分まで走り出す優一ゆういち。しかも、罵声を浴びせかけながら。


 普段からよく通るその大声は、洞窟の中を反響する。今まで無二むにに攻撃の目を向けていた魚人たちのむき出しの目が、一斉に立ち止まって罵声をあげる優一ゆういちを敵と見ていた。遅れて優一ゆういちの隣を抜ける正吾しょうご


 その瞬間、小部屋の中で何者かのくぐもった悲鳴が聞こえていた。


 それと同時に優一ゆういちの背後で詠唱が聞こえる。その独特の旋律は四人がそれぞれの術を用意している証しだろう。

 だが、それは優一ゆういちたちだけの話ではない。青龍のいる洞窟の空間からも、異なる詠唱に似た響きが聞こえている。


「不動明王火炎呪!」「雷帝雷鳴術」


 二つの術が完成した瞬間、優一ゆういちは信じられないものを見ていた。青龍のいる小部屋は、優一ゆういちたちがいる場所からは暗くて見えない。それは先ほど無災むさいが話した通りの状況。だが、無災むさいが放った炎の明かりは、その部屋を瞬間的に照らし出す。


 おそらく、自分の五倍ほどはあるかと思える巨大な竜。その小部屋はいかにも狭いのだろう、とぐろを巻いた状態で宙に浮かんでいる。艶やかな鱗に守られたその姿は、本物の龍神のような気高さを見せる。だが、その体にはいくつもの苦無くないが突き刺さっている。そして、その赤く濁った瞳には、狂気の光で満ちていた。その脇を固めるように、陰陽装束を身に着けた二体の竜人。一人は片膝をついて立ち上がれない様子から、さっき上がった悲鳴の主に違いない。


 おそらく無二むにの痺れ切りを受けたのだと、優一ゆういちは瞬時に理解した。そして、優一ゆういちはその一瞬の光景で、様々なことを理解した。


 竜人をしびれさせた後、無二むにが次の標的を青龍に定めたと思われること。その時無二むにが投げた苦無くないが、先ほど青龍の体に刺さっていたものだという事。しかし、それで青龍の動きが止まらなかった。だから、無二むにはその時青龍に向かっていたという事。


 無二むにの背を見た瞬間がその時であり、それはまさに術が完成した時でもあった。


 火炎が無二むにの背中を中心にして広がる。頭上から直撃した雷が、無二むにの体を突き抜け地面に刺さる。


 二つの術の中心点。急制動をかけた正吾しょうご以外が見たそれが、無二むにがいたように見えた場所だった。


 術の効果が吹き荒れる。


 その小部屋のような空間を、爆炎と雷鳴が乱舞する。しかし、それも長くは続かない。立ち込める煙が、代わりにその空間を支配する。


 もともと暗いその中は、煙のためにさらに見えなくなっていた。


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