新たな仲間3

「あっ、そうだった。そうだった。巫女さんのお名前は、清楓きよかちゃんだったよね。あの朋読神社の末娘が、荒事を率先して行っていると聞いてたけど、それが君だったんだね。美しい銀色の髪と翡翠の瞳。噂以上に美しいね、君。そっちの青髪の子もいいけど、ちょっと無表情だからね。その点、君は気に入ったよ。その勝気な顔が、とてもいい。そうだ、これからの事を相談しようよ。君、狂神と化した四神を封印して、根の国に降りたいんだよね? 大丈夫。そんなことは、この僕が全部やってあげるよ。君は根の国になんて行かなくてもいいから、神社の奥で待っていなよ。そしたら全部、この僕が終わらせてあげる。何と言っても、僕はあの九頭竜くずりゅうの人間だからね。さあ、場所を変えよう。二人っきりで、ゆっくりできる所で話し合おう」

 軽い感じでそう言いつつ、陰陽師が近づいてくる。だが、その歩みは優一ゆういちのすぐそばで止められる。スッと伸びた薙刀なぎなたによって。


「戯れが過ぎるぞ、法経ほうけい殿。では、そろそろ拙僧の自己紹介をいたしますかな。このままお主の言を放置すれば、清楓きよか殿ばかりか、そちらの方々が我らの参入を快く思わぬよ。拙僧は無災むさいと申す。この世から、災いを無くすという名を頂いておる。すなわち、このえにし御仏みほとけのおぼしめし。朋読神社と僧院との間にある確執も、拙僧には関係なきこと。拙僧は、今の世をうれう者と思っていただければありがたい」

 薙刀なぎなたを引き戻し、小脇に抱えて合掌する。その流れの中で、自らを無災むさいと名乗る筋肉質の僧侶。その体つきは、優一ゆういちのそれと比べても見劣りしない。だが、その丁寧な立ち振る舞いは、見ている者に余計な緊張を与えるものではなかった。


「この! 生臭坊主の無災むさい! 僕は自分で名乗っただろ! それ以上名乗る必要はないんだ。余計な事を――」

「では、法経ほうけい陰陽師さんと無災むさい僧兵さんが新しい仲間になったのですね。先ほどの言動を考えますと、あまりお近づきになりたくはありませんが、一応よろしくお願いします。私の名は白菊しらぎくと申します。ご存じのとおり、薬師くすしです。ですがまだ、蘇生術が使えません。ですので、法経ほうけい陰陽師さんに守っていただく必要はありません。どうか、そちらの無災むさいお坊さんをお守りください」


 怒りの矛先を無災むさいに向けた陰陽師。だが、その声は途中で遮られる。表情を変えない白菊しらぎくの平坦な声と共に。


 一瞬のうちに、世界が凍る。『この子は何を言うのだ』という表情を浮かべた正吾しょうごは、まるで餌をねだる鯉のように、ただ口をパクパクと動かしていた。

 

 だが、それは彼だけではない。


 一瞬虚を突かれた感じで固まる無災むさい法経ほうけい。そして、正吾しょうごを加えたその三人が、まるで彫像のようになっていた。だが、凍った時間は徐々に流れ始めている。緩やかな時の流れに、さっきの話は聞かなかったことにする空気が流れてくる。


 しかし、それが満ちるよりも前に、優一ゆういちの豪快な笑いが響き渡る。せっかく流れ始めたその空気を、ものの見事に吹き飛ばしていた。


「嬢ちゃんには参るぜ! おい、法経ほうけい! あっ、ダメだ。オレ、お前の事を名前でよべねぇよ。どうすんだ? 戦闘中不便だぜ!? だが、九頭竜くずりゅうってのも、長ったらしいよな!」

 座ったまま、テーブルの端を叩く優一ゆういち。元々声の大きい彼が、周囲を気にせず大声で笑っている。


 その笑い声につられたのだろう。いつの間にか酒場の中は、シンと静まり返っていた。


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