星を求める3周年

のーはうず

星とハート

我々が星を求め、そろそろ3年が経つ。

3年、言葉にすれば短いが、長かった。


同じ頃にこちらに移住をおこなった仲間には、1年と持たずにこの地で生き続けることを諦めたものもいる。3年という長きにわたる艱難辛苦かんなんしんくを伴に乗り越え、生き残れたものは1割にも満たない。我らがここに至るまでの道のりを感がれば、只今目下反抗期の孫の横暴ですら愛おしく思えるのだ。



我々が移民するに至った当時、破局的な環境変化により、人類史上類をみない飢饉と大規模な景気後退に見舞われた。


時の政府は、「新天地に征けば耕しただけの豊かな土地を手に入れられ、すべてのものを手にすることができる! いざ新天地へ!!」と、喧伝し移民を募った。


生まれたばかりの息子を抱え、食うのにも困っていた我々夫婦は、このわずかばかりの可能性にしがみつくよりなかったのだ。自分の身一つであれば、まだ留まったかもしれないが、その時、息子や家内は既に深刻な栄養失調状態に陥っており、早急な栄養改善が必要だったのだ。



留まれば死ぬことが目に見えていた。

心の奥底ではそんな旨い話しがあるはずなどなかろうという疑心はあったが、わざわざ高価な船を用意して、貴重な燃料を無駄にしてまで、国が職にも食にもあぶれた人をどうにかすることもあるまいと、最後は信じたかったのだ。慣れない土地で苦労はあるかもしれないぐらいの事だと甘くみていた。


着いた新天地はいくら耕しても作物は育たない荒涼とした場所だった。かろうじて息をつくことができる程度の隙間。しかもそれすら人数分もない。

万全に用意されているはずの食料も、生産設備も、医療施設も本当になんにもなかった。得られるはずの星は眼前に巨大に輝くばかりで、夜空には星がいくつもあるのに手に入れることは叶わず、日々記録を書き上げるたびにハートが失われていく。そんな感覚だった。


時々ほんとうに偶然のように手に入る、ささやかなハートのぬくもりだけを頼りに喰いしのいでいくしかなかったのだ。


国がおこなったのは移民政策ではなく、棄民政策であったのだ。



あれから、ようやく3年、たかだか3年。


3年前、こちらに移住してきたころは、まだ年端もいかぬ乳飲み子だった息子もいつの間にかパートナーを迎え、今やその孫が多少生意気ざかりになる年頃にまで無事育ってきている。



孫世代は苦労を知らない。

作物も育てることができなかった凍りつきアンモニアにまみれた大地は、いまではそれを肥料に変え、豊富な食物を生産することができるようになった。


ガスに阻まれ、遠く遠く薄くかすかに差し込むだけであった太陽の光は、代わりの人工太陽がその役割を担ってくれるようになっている。外に見える大自然はすべてが我々が故郷を懐かしんで作ったまやかしだが、ここで生まれ育った孫世代はそれに疑問すら持たない。



あれから三年。

木星の軌道衛星につくられた実験施設は豊かな都市になりつつある。

木星の公転周期は4,329日、こちらの1年は地球での約12年に相当する。

あれから三年。地球での36年が経過した。


星は手に入っただろうか。

ハートは手に入るだろうか。


四年目はまだまだ果てなく遠い。

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星を求める3周年 のーはうず @kuippa

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