第3話 ゴブリンのダンジョン
滝をくぐった裏側にはポッカリと大きな穴があり、入り口は不思議なぬるぬるした銀の膜に覆われていた。
触ると波紋が広がるが抵抗なく通り過ぎる。
剣を入れてみるが特に問題なさそうなので、思い切って身体を差し込むと、なんの抵抗もなくするっと通り抜けた。
入るとゆるやかな下り坂になっていた。
ところどころに大きな空洞があって部屋のようになっている。
部屋には鎧や剣が置いてあるものや、動物の死骸がまとめて置いてあったりする。
片手に剣を手に慎重に歩いていると、突如としてそれはやってきた。
強烈な下痢である。
思い当たるのはさっき食べた筋肉ダルマが持っていた干した木の実である。
そもそもあんな人外共の食べ物をほいほいと食べたのが間違いだった。
脳筋どもの食べ物がまともなはずがなかったのだ。
壁にもたれ掛かり、意識を集中する。
トイレだ、トイレを探そう。
筋肉ダルマとはいえ流石にトイレぐらいはあるだろう。
額から流れる脂汗を拭き、ぎゅるぎゅると鳴る腹を押さえて歩きだす。
***
もはや意識が朦朧としている。
筋肉ダルマたちは男だけでなく女や子供も出会えば速攻で攻撃してくる。
恐ろしく戦闘好きな種族である。
向かってくる筋肉ダルマは剣を持つ指を斬り落としてから頭を割る。
もう50人以上は殺してしまった。
何でこんなことになってしまったのか。
今はただトイレに行きたい、ただそれだけなのに。
次の部屋はたどり着く前から嫌な匂いがしていた。
血と糞尿の匂いだ。
坑道を抜けて大きな空間が広がる場所に出る。
そこには逆さに吊るされた女性が二人いた。
すでに死んでいるのは明らかで、解体された牛のように腹を割られて内蔵が取り出されていたからだ。
(まさかもう殺されているとは予想外だった、まだ巣に入って数時間なのに!)
部屋には他に人の気配はなく、部屋の隅には大きめの溝が掘られてそこに糞の山が出来ている。
(あーくそっ、期待はしてなかったが最悪なトイレじゃねえか)
溝にしゃがみこみ用を足すが今度は尻を拭くものがない。
ほとほと困っているところに奥の部屋から二人の筋肉ダルマが歩いてきた。
一人は首にジャラジャラと金属のチェーンを下げ手には先端に石が付いた杖を持っている。
もう一人は錆びていない鎧を着ていたが背が高い。
俺より頭二つほど長身の筋肉ダルマだった。
そして剣を二本腰に挿していた。
俺に気付くと、杖を構え、もう一人は剣を両手にそれぞれ構える。二刀流のようだ。
構える剣はピカピカと輝いている。
尻を拭いているどころではなくなり、急いでズボンを上げて立ち剣を持つ。
二刀流は俺に向かって走ってくる。
俺も右回りに動きながら間合いに入ってくるのを待つ。
目の前まで来た二刀流は急に左にスッと半身ほど動かした。その後ろから赤い火の玉が飛来している。大きさはソフトボールぐらいである。
奥の杖野郎が飛ばした魔法のようだ。
(火魔法か!すげえ!)
スピードは早い野球の球ぐらいで避けれそうである。
身体をさらに右に動かすと、予想外にも火の玉も動いてついてくる。
(追尾型とは!)
慌てて剣で叩き落とそうとするが空振りしてしまい肩に直撃した。
鎧の上に当たったが衝撃で跳ね飛ばされる。
硬い鉄の玉をぶつけられたようだった。
崩した体勢のところに、二刀流が飛び込んでくる。
良い連携だが動きが単調だ。
動きはこれまでに戦った筋肉ダルマより少し早いぐらいだ。
上段からの振り下ろしを、俺は下段から指を狙って撃ち返す。
うまく手の甲を斬ることが出来て、二刀流は右手の剣を落とす。
左手の一本の剣は下段から俺の胴を狙って振られている。
剣術も何もない力任せの大振りである。
スピード勝負で素早く剣を振り下ろす。
カシュッと振り下ろした剣は、二刀流の腕を切断した。
俺の胴を狙った剣は切断された腕とともに後ろに吹っ飛んでいく。
その時、後ろから白い光が飛んできて、二刀流の手の甲の傷が癒える。
(治癒魔法じゃん!すげえ!)
二刀流は後ろに下がりながら落としていた剣を右手に持つ。
切断した左腕からの出血も止まっている。
二刀流は腹から大きな声を出すと、上段から力任せに振り下ろしてくる。
俺は下段から手首を狙って超素早く剣を振り上げる。
二刀流筋肉ダルマの手首から先が吹き飛んでいく。
振り上げた剣をそのまま二刀流の膝に振り下ろすと腿を半分ほど切断できた。
後ろから白い光が飛んできて手首と腿の傷が光る。
だがガクンと前のめりになった二刀流の首筋に俺の剣が入るほうが早かった。
ゴロゴロと斬り落とされた首が転がる。
杖ダルマはまた火の玉を飛ばしてきた。
直線的に来る火の玉を避け、走って距離を詰める。
すれ違った火の玉は後ろから追ってきているようだが、構わずに杖ダルマに剣を振り下ろす。
頭から入った剣は腹まで届き、バリンッという何か割れる音がした。
剣を手放して前に転がって後ろを見るが火の玉は消えていた。
ドサっと杖ダルマが仰向けに地面に倒れる。
腹には粉々に割れたガラスのようなものが詰まっていた。
そこから白い光と赤い光がふよふよと俺の方に飛んできて身体の中にすーっと入った。
身体の中でドクドクと何かが動く感覚が始まる。
(ほほう?これが魔法か。試してみるか?)
とりあえず手を前に出してドクドクするものを集めるイメージをすると目の前にライターの火のようなものがチョロっと出て消えてしまった。
(おお、火が出た。でもちょっとしょぼくない?)
回復の方も、膝にできた擦り傷に試してみるが、少し光って出血が止まったような気がする。
なんか思ってるよりしょぼい。
(そのうち使っていくうちにマシになっていくんかな?)
わからないことだらけである。
二人の筋肉ダルマが出てきた部屋へ行くと獣の骨に糸をぐるぐる巻き付けた祭壇のようなものがあった。
それ以外には何もなく拍子抜けである。
なんとなく祭壇みたいなやつはボコボコに破壊しておいた。
手前の部屋に戻り、逆さに吊るされていた女性の縄を切って下ろす。
そのままにするのは忍びなかったのだ。
もとは美人そうな若い二人であった。
二人の荷物や服が横に置いてあったので調べてみる。
ピンクのレースをふんだんに使ったドレスとピカピカに光る女性向けの鎧がある。
姫様とお付きの騎士というところだろうか。
騎士のものっぽいベルトにはポーチがいくつも付いていて中には小瓶や食べ物らしきものがはいっていたので自分の腰に付ける。
鎧はサイズが合わず女性向けっぽいので置いていくことにした。
二人をせめて火葬するべきかと思うが燃やせる木などがない。
着火は火魔法でできるのだが、と悩んでいると奥の部屋からビキビキと音がする。
急いで見に行くと部屋全体にヒビが入り天井から落盤が始まりそうで、細かい石のかけらが落ち始めた。
(あの杖ダルマがボスで、ボスが死んだら崩壊するのだろうか?)
まったく何もわからないのである。
とりあえず、二刀流が持っていた二本の剣を拾って、急いでこの洞窟から脱出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます